初雁公園野球場前座試合
三日間の練習はそれはそれは凄惨なもので、たぶん
いや、控室というと何となく違和感がある。だってここは野球場のベンチの中なのだ。
「それに、重い」
前座試合はとにかく安全性が考慮されている。奴隷といってもむやみに殺すまで戦わせるのは
「両手剣は盾が持てない武器だからな。安全のためだ」
「それはわかってますけど、
「
確かにそれは納得だ。
最後に木製の両手剣を渡されて、僕は背負うように剣を肩に乗せてベンチからゆっくりとグラウンドに入った。もうマウンド辺りにある開始線まで行くだけで汗が止まらなくなりそうだ。本当にこんなことで戦えるんだろうか。
「よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
先に入っていた
前座試合ということもあってお客さんの反応はイマイチだった。思い切り叫んでいるロウさんと勇さんの声が聞こえてきてちょっと恥ずかしいくらいだけど、おかげであまり緊張はしなくて済みそうだった。
レイピアが刺さらないように網目状になった兜の視界は悪いけど、薄暗い
「試合開始!」
合図と同時飛び出したのは向こうだった。こっちは重い両手剣を持っているんだから当然だ。必要なことはスピードでかき乱して隙を窺う。それが鉄則であることくらい僕にもわかるくらいには成長している。
一つ、二つ、三つ。点にしか見えない刺突が僕の悪い視界へと飛んでくる。それを甲冑に任せることなく僕は体を沈めてかわした。思ったよりも遅い。攻撃ってこんなものだったっけ、と相手の剣を籠手で払って距離をとる。
今度は僕の番だ。
「せいやぁ!」
気合いとともに放り投げるように両手剣を振り下ろす。
カムイさんの言っていた通りだ。両手剣は早さでは敵わない。だったら長さを生かしてしっかりと相手を押し返して、距離を保つ。相手が迫ってきたら反撃は考えずにまずは身の安全を最優先に考える。
それができていれば少なくとも負けることはない。聞いているときは無理だと思ったけど、案外なんとかなるものだ。さすがに両手剣の斬撃に恐怖を覚えたのかさっきより
戦うのが嫌なんだ、この人も。だから闘志は宿っていても狂気はない。
戦いたくないから
もう反撃は簡単だった。何度目かの突きを沈みながらかわして、体を横に捻る。剣を放り投げるのは縦だけじゃない。回りながら横に振ることも出来る。
不意打ち一閃。意識していなかった脇腹に両手剣のフルスイングが刺さる。防具の上からの一撃でも相手の顔はひどく歪んでいた。たぶんもう立てない。僕だって相手を気遣って手加減なんてできないのだ。
だってここは川越なんだから。
勝利宣言を聞いて僕は自分の足でベンチまで戻った。五体満足、けがもない。とりあえずロウさんやミオさんに叱られることはなさそうだ。
「まさか勝てるとは。君を甘く見ていたらしい」
ベンチで待っていたエレナさんは本当に驚いた顔をしていて、少しも僕って信頼されてないんだなぁ、と勝ったのにちょっと感傷的になってしまった。そりゃあれだけ迷惑かけたんだから急に戦えるようになりました、って言っても信用できないかもしれないけど。
甲冑を脱ぐと汗まみれになった体にカムイさんがタオルを投げてくれた。ギルドの擦り切れたものじゃなくてふかふかだ。経済力の差を思い知る。
「初勝利。その感想はあるかい?」
「少しだけ、ここにいる人間の気持ちがわかりました」
みんな戦いたくてここにいるわけじゃないんだ。戦うしかないからこうして剣をとっている。それに対して僕は何をしてあげられるだろう。今はまだ自分だけで精いっぱいだけど、
「私は
「はい、ありがとうございました」
「またいつでも来るといい。剣の道を教えてあげるよ」
カムイさんはそう微笑んだけど、僕としてはできればお断りしたい。もしくはもう少し優しくしてくれるなら考えるんだけど。
僕は出場料と賞金をもらって
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