奇跡の対価は
「まぁ、魔眼を避けて倒す方法はあるな」
勇さんは頭を抱えるミオさんに真剣な表情を向けた。
「あの通路を飲み込むほどの衝撃波なら魔眼が見えない位置からでも倒せるかもしれん」
「でもあれは偶然で」
今はまた、ろくに
「仮に叶哉さんがその攻撃ができると仮定しましょう」
勇さんの話を受けてミオさんが重い口を開いた。今日は朝に荒れ狂う
「魔眼の
「そりゃ、俺らだろうな」
他人事のようにロウさんが答えた。実際普段は
当然と言えば当然だ。六階層より先には
「そもそも深層階への進入許可があるのは私だけだろう」
「エレナも拳闘の経歴でもらっただけで冒険者としては素人だ」
「別になくても潜りゃいいんだよ。許可なんて向こうが勝手に決めてるだけだ」
一番の当事者のはずなのに、僕はなんだかみんなの話が遠くに感じる。やっと
「やっぱり危険なんですよね」
「嘘をついても仕方がない。かなり危険だと言っておこう」
それを聞いて、ますます僕は現実味がなくなっていく。これまでも危険なことを乗り越えてきたはずなのに。
みんなはまた僕をどうやって守るか、という話を広げている。深層階に行くと
本当は人間だけで
「とにかく叶哉さんには申し訳ないですが、この件は少し先送りにしましょう。二つ名持ちよりもまず
「はい、そうですよね。安全が一番です」
それはつまり僕が川越に長く留まるってことになるんだけど、今はなんだかそれでいい気がしていた。こうして僕のことを考えてくれる人たちに無理させるよりも少しずつ確実に前に進めれば。それからもうちょっと贅沢を言うならもうちょっといいご飯が毎日食べられるようになるといいかもしれない。
「しかし、何故急に
「あのときのことはよく覚えてないから、どうしてかって言われても」
とにかく必死で剣の柄を握ったら何故か振れた、というだけだった。
「
「じゃあ、僕がみんなを守りたいと思ったから?」
必死になって柄を握ったから
あの剣の中では僕は守る対象に入っていないのかもしれない。僕が倒れたときに一番困るはずなのに。信頼してもらっているのか、それとも呆れられているのか。たぶん後者の方だと思う。
「もしそうだったとしても毎回命の危機に直面されても困ります」
「そうですよね」
そんなことしていたらみんなも危険だけど、僕が一番最初にダメになっちゃいそうだ。毎回自分の両手にみんなの命を預かっていたらどこかでこぼしてしまうかもしれない。そうじゃなくてもプレッシャーに押し負けてしまうだろう。
冗談にもならない話なのに、一人だけエレナさんが興味深そうにあごに手を当てながら聞いている。
「なるほど、それは面白そうだな」
「やめてよ、えれなおねえちゃん」
「絶対に禁止ですからね!」
かなり本気に聞こえるトーンで言ったエレナさんに氷雨ちゃんとミオさんから同時にストップがかかる。この人は本当にそういうことをしかねないという怖さがあるのはなんでなんだろう。普段はギルドでも常識人だと思うのに。
結局問題を先延ばしにするという結論だけ残して、話し合いは終わってしまった。ロウさんにもミオさんにもかなり予想外のことだったみたいで僕を池袋に帰すと言った二人の表情は暗かった。
「そんなに気にしないでください。僕、このギルド気に入ってますから」
「叶哉さん」
僕が言ったことは嘘じゃない。また池袋に戻りたいのは本当だ。奴隷が嫌だとか
「じゃあ、まずは六階層に行けるようにならないとな」
ロウさんは作ったような嬉しそうな顔をして、僕の頭を軽く叩いた。本人は気付かれてないと思っているみたいだから、僕は何も言わなかった。
「はい。いってきます」
その代わりにしっかりとした声で答える。こうして少しずつ前に進んでいけば、いつか
「今日は六階層にまで行ってみるか?」
「だから無理は禁止です!」
エレナさんが冗談めかして言った言葉にもミオさんが慌てて止めに入る。この空間を壊さないためにも頑張ろう、と僕は何も言わない
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