きまぐれな相棒
「それが
「
「あぁ、
勇さんはもう今夜のデザートに頭が移ってきているみたいだ。さっきから青ざめて、かっこよく立ち塞がって、呆然として忙しい人だ。僕は勇さんに言われた真っ黒な
つまりこれから僕が
僕は拾った
皮袋にいっぱいのお金を詰め込んで、僕たちはギルドに戻った。入りきらなくてちょっと氷雨ちゃんのリュックにも入っている。いつもなら半分にも満たないほどの量が倍以上になったんだから、あの小さな黒い塊にしか見えなかった
「一体何があったんだよ?」
僕たちがどこかから盗んできたとでも言いたげな表情でロウさんは首を傾げた。ミオさんは積み上がった硬貨に目を奪われてさっきから何を言っても反応がない。僕はこっそり砂糖を入れたコーヒーを少しずつ飲みながらみんなの話を聞いていた。
「
「無事だったのか!?」
「見ての通りだ」
立ち上がったロウさんは
ロウさんは僕たちを一通り見まわして確かに、とつぶやいてからまたソファに戻った。本当に無事だったのは奇跡だと思う。あんな都合よく
「叶哉が倒したんだぞ。
「いや、それは無理だろ」
そんな一瞬で否定しなくても。確かに昨日の今日で信用してもらうのも難しいかもしれないけどさ。ミオさんはまだ山になった硬貨に目がくらんでいて全然僕たちの話を聞いてくれてないし。今まで詐欺とかに遭わなくてよかったと思ってしまう。
「まぁなんでもいい。無事な上にこうやって稼いできてくれたんだからな」
やっぱりロウさんは信じてくれていない。僕が
「で、本当はどうやって倒したんだ? 叶哉がこけたときにたまたま当たったとかか?」
「違いますって。こうやって」
あまりにもロウさんがひどいからちょっと見せつけよう、と僕はさっきやったように壁にたてかけた
剣を掴んだ手を思い切り振り上げる。でもそれは叶わなかった。またいつもの重さに戻った僕の相棒は頑として壁から動こうとはしなかった。軽いものだと思っていたから行き場を失った力が体中を走って背中が
ミオさんのいう相性っていうのがどういうものなのかわからないけど、きっと気が向いたときには力を貸してくれるんだろう。気まぐれだけど悪いやつじゃないみたいだ。
「で、本当はどうしたんだ?」
うずくまった僕を見ながらロウさんは笑いを堪えている。大笑いしないのは一応今日一番の功労者であることは認めてくれているからなんだろう。
「いや、本当に叶哉が倒したのだが」
勇さんのフォローもこの状態じゃ少しも説得力がないだろう。
まだ背中の痛みが続いている僕の肩にエレナさんが手を押して耳元でそっとささやく。
「うまくいかないこともままある。それもまた宿命だ」
「そんな宿命嫌です」
みんなが無事でいることと認めてもらうこと。それくらいはなんとか前に進んでいってほしいものだ。それが叶うなら僕が池袋に戻ることが遅れるくらいはどうだっていい。
「次もよろしく」
誰にも聞こえないように言った僕の言葉は何故だか相棒にだけは伝わっているような気がした。
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