振りかざす魔剣
二階層に下りても
「なんだ、野菜か」
勇さんの手には白菜ときのこ。それも白菜はスーパーで売っているようなカットされて包装されたものだ。きのこの方もぶなしめじという文字と見たことのあるような会社のロゴマークが印刷されている。カステラのときもそうだったけど、いったいどこで包装されているのか。そもそもこれはここではなく元の川越から来たものなんじゃないのかと思えてくる。
それにやっぱり傷んでいる様子はない。白菜なんて冷蔵庫に入れていても早く悪くなってしまうし、もっと置きっぱなしにしていると液状化して大惨事になるって聞いたことがある。でもどう見てもとれたてとそう変わらない雰囲気だ。今まで僕もいくらか
そういえば昔怪しい雑誌でピラミッドの中に食べ物を入れると腐らない、って話を読んだことがある。川越の地下迷宮は大きなピラミッドなのかもしれない、なんてことを考えて、僕は一人でそれを否定する。
「やっぱりおかしくないですか?」
「何か変なところがあるか?」
「だってこれこんなきれいに包装されてますし」
「包装、って元々こういうものだろう?」
僕の疑問にエレナさんが疑問で返した。いつも冷静でなんでも知っていそうなエレナさんに言われるとなんだか僕の常識が揺らいできてしまう。ときどき忘れてしまいそうになるけどみんなは
だから彼女たちにとっては
まだみずみずしい白菜ときのこを氷雨ちゃんのリュックに入れて先へと進む。みんなが気にしていないならもう包装のことは言わないでおくことにしよう。
なんだか僕がやる気に満ちているときに限って何も起こらない。そう思って進んでいると、次に声をあげたのはミオさんだった。何かが落ちているという感じでもない。その声に答えるようにみんなが前に意識を向けたのだけはわかった。
「いつもと同じだ。落ち着いていけよ」
ロウさんが僕に向かってそう言った。
赤い瞳は二つだった。一匹だけで出てきた
高速度の衝突に勝利したのはエレナさんだった。伸ばした拳を
「叶哉。やってみるぞ」
「はい」
僕は背中に手を伸ばして
少し動かすとベルトが外れて地面に落としそうになってしまう。すぐに両手でつかんでゆっくりと下ろす。剣先が地面を叩いて少しえぐれた。倒れた
「よし」
僕は短く息を吐いて、自分に言い聞かせるように言った。そうしないと声の代わりにまた胃の中で暴れているものが外に出てきそうだった。しっかりと口を閉じて空気を飲み込んでから、僕はついに
ふらふらと頼りない軌道でゆっくりと、でも確実に
「消えた」
「消えたんじゃない。お前が倒したんだ」
ロウさんにそう言われても僕にはそんな実感がわからなかった。ダメージの割合で言えばほとんどエレナさんによるものだ。あれほど強力なカウンターストレートと僕が
「あれで倒せるのか。恐ろしい力だな、
勇さんが今までの元気をどこかに落としてきたみたいに神妙な声を漏らした。別に触れただけなんだから驚くようなことなんてなかったと思っていたんだけど。
「
「うちで唯一の
ロウさんが自慢げに胸を張ると、またミオさんが耳を引っ張った。
「なにすんだよ」
「その大切な叶哉さんをあそこまで
耳を引っ張りながらお小言が続くミオさんを止める手段は誰も持っていない。僕は一通りのお説教が終わるまでにまた
「しかしあれを見ると我の二刀も形無しだな」
勇さんは僕の背中を見ながら少し悔しそうに言った。新選組に憧れている勇さんにはこの両手剣状の
「でも、これすごく重たいんですけど」
「それは鍛えて慣れていくしかないな。これからお前の仕事道具であり相棒なんだ」
やっぱりそうなるよね。やっと一つ乗り越えたと思ったら次の課題がすぐに目の前にやってくる。そんな簡単に川越での生活がうまくいくわけがないのだ。それでもみんなのおかげで僕はやっと一歩前に進むことができた。今はそれだけで十分だった。
その後は結局五階層まで進んだ。落とし物も
逆に収穫は最初に拾った白菜ときのこ。それからトマト。食べ物以外にはまな板と洗濯ネットらしきもの。これって川越で使われているんだろうか。それにしても生鮮食品と日用品ばかりだ。百貨店の地下にある
「そういえば報奨金っていうのは出ないんですか?」
荒れ狂う
「報奨金は
それってつまり、僕一人の力で倒せないと永遠に川越からは出られないってことだ。やっぱり道のりは長いなぁ、と僕は背中の頼れる相棒に語りかけるようにそう思った。
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