2.苦悩
今、彼女は大いに悩んでいる。女の悩みの種が芽生えたのは、今日の昼にさかのぼる。鏡の中で揺れる蝋燭の炎が、女を励ますように揺れていた。もちろん、鏡に映ったものが彼女に何か重大な影響を及ぼしたわけではない。しかし彼女は熱心に鏡の中の「虚像」に語りかけた。そして、一つの決意を固める。
「そうよね」
女は強く、深く頷いた。
「私しか彼女を助けられない。だから行かなくちゃ!」
思わず口にした女自身の言葉が、女を突き動かした。勢いよく立ちすぎて椅子が後ろに大きな音をたてて倒れたが、女はそのことに気付かなかった。それほどまでに女が受けた「啓示」は強烈だったのだ。ただでさえ軋んでいた椅子だ。今の衝撃で、完全に壊れてしまったかもしれない。女は鏡を丁重に包み直し、出した時と同じようにゆっくりと慎重に衣装ダンスの奥に戻した。
女は曾祖母の代から受け継がれてきた別のタンスに手を伸ばす。ついにこれが必要となる局面を迎えるのだと思うと、女に緊張が走る。女が手にしたのは、タンスと同じく曾祖母の代から受け継がれてきた物だった。縁の刺繍が施された大きな黒い布だった。女はそれを大事に抱え、代わりに自分がまとっていた白く大きな布を脱ぎ捨てた。すると不思議なことに、自然と覚悟を決めらたような心境になった。決意と覚悟は似ているようで明らかに違う。それは責任を負うか負わないかの差異だ。女は心の中で決意し、それに基づいて実際の行動し、その責任を負うと決めたのだ。だから、彼女の中で決意が覚悟に代わったことは、短時間で大きな変化が起きたということだ。その変化をもたらしたのは、鏡の中の「虚像」だとしか考えられない。あの蝋燭に、女は何かを読み取ったのだ。
女は険しい表情で部屋をあとにした。女はもう、振り返ることも躊躇することもなかった。鏡の中では、相変わらず蝋燭の炎が揺れていた。
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