第35話いつかあなたは
グレイは、奥村と共に他の世界へと飛たった。
奥村がもう世界を救うことはなく、グレイも救われることはないだろう。
イバラは、妙に上機嫌に俺の背中を叩いた。
「本当にカミサマに一泡吹かせるような作戦だったわね。まぁ、次は使えないけど」
「そうだな。異世界移動っていう奥村のスキルがあったからこそ、できた裏技みたいな作戦だった。そのうえ、グレイの説得も綱渡りだったし……」
どこかで破綻してもおかしくない作戦だった。
「私は、その心意気が気に入った。クロ、次に会うときもこうやって一緒にいられることを願うよ」
イバラは、俺の側を離れる。
彼女もまたモニカと共に異世界へと旅立つのだろう。
もしかしたら、もう二度と会えなくなるのかもしれない。
「クロ、英雄殺しを止めるって選択は常に頭に入れておいて」
最後の彼女の忠告に、俺は苦笑いする。
今回は、誰も死なない方法を考え付くことが出来た。だが、次もこうなるとは限
らないし、もうこんな幸運にはめぐり合えないかもしれない。
「クロ、お前はどうしてグレイと一緒に行かなかった」
シロは若干不機嫌そうだった。
どうやら、俺がグレイたちと一緒に行動するものと思い込んでいたらしい。たし
かに、グレイたちと一緒に行動すれば穏便にカミサマの元からは逃げられる。
「でも……奥村が一緒だからな」
「……そうか」
シロは目を伏せた。
グレイには偉そうなことを言ったが、俺も彼を許せるようになるにはまだ時間が
必要だった。
「そういえば、シロ。おまえ、この世界では何の絵を描いていたんだ?」
怪我の治療していたシロは、何もない部屋でスケッチブックに絵を描いていた。ほっとできる状況になったら、シロが何を描いていたのかが気になってしまった。
なにせ、こいつの絵は上手いのだ。
「クロの絵」
シロは、俺の顔をじっと見つめる。
額に皺を寄せて、俺の顔を真剣にじっと見つめる。
数十秒間は、シロはそうやっていた。
「駄目だった。ぜんぜん、似てない」
「……そーか」
「そっくりに描けるようになるまで死ぬな――さびしい」
シロの言葉に、俺は唖然とする。
緊張して硬直する体をほぐしながら「また、実感を伴わない言葉を使っている
な」と俺はあきれるようにため息をついた。
「それは、こっちの台詞だ」
俺たちの英雄殺しとしての旅は、次の瞬間には終わるかもしれない。
それでも俺は、今のシロには幸せになって欲しいのだ。
モノクロのディストピア 落花生 @rakkasei
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