第45話-誰も天才には敵わない

 寝ていた梨子を起こし香歩には事情を話さず、各々清算を済ませたということにした。

 残るは雅と香歩だけという状態にしたのである。

 個別ルールにあるように、香歩が雅を清算しゲーム終了時間になれば終わりだ。


「小松さん、いいですか?」


 皐月に言われ、雅は皆から少し離れた所に移動した。


「なんだ?」

「僕の罪は子供の頃、遊んでいた最中に妹を転落死させたことでした」


 いきなり罪の告白が始まり、雅は言葉を挟むに挟めなくなった。

 釜田の端末にあったメモには、十七人分のプレイヤーの罪が記されていた。

 雅だけがそれを見たので、皐月の罪は事前に知っていた。

 生存するプレイヤーでは、沙世の我儘で両親死亡させたこと。志郎の母を助けなかったこと。美姫の親友の自殺をとめられなかったこと。梨子のテロにあった時家族を助けなかったこと。

 そして、香歩の進化を停滞させたこと。

 皐月の罪は彼ら彼女らのように全て一人の責任であると言い難いものだろう。

 だから罪が軽い方だ、と心の幼い雅は考えていた。

 近藤の第二回パーフェクトビルテロの実行というのもある中ではそう考えるのが妥当だった。


「もちろん何も思わないわけではありません。ですが、どうにかなっています。こんな僕でこうなんですから、樋口さんは平気ですよ」

「励ましが下手だな」

「あ、そんなこと言いますか」


 皐月を小突き、雅は軽く微笑んだ。



 嘘がばれないよう終了直前に、香歩を起こし清算させた。

 ゲーム終了時刻になった途端、次々と眠りに落ちていく。

 そんな中、雅だけが立っていた。

 彼だけは眠らせることができなかった。

 初めからそうだった。


「確信したよ。やっぱり俺はルールに縛られていなかったんだな」


 こちらを見た雅が、私にそう言った。


「ええそうです。銃火器禁止エリアで撃とうとも殺せない。こちらのいかなる操作も受け付けませんからね、貴方は」

「それはそうだ。俺を超えるTEが生まれない限り」


 このゲームで用いられている技術の大半は、小松雅こと宮田歩が発明したものだった。

 そして、彼は我々とは全く別次元の屈強な体を持っている。

 ゲームには欠かせない思考を読むことができる自白剤が他のプレイヤーやTEには効いても、彼には効かない。

 だが、問題なかった。

 彼の事を一番知っているのは私なのだから。

 だからこそ、観客が違和感を抱かず解説することができたのだ。


「遠回りは嫌いでね。単刀直入に聞こう。初めにあった仮面、お前が十八人目だな?」

「その通りです」


 このゲームは十八人で行われる。今まで表舞台には十七人しか出ていなかったのだ。

 過去に参加したことのあるプレイヤーは死んでいたし、ルールで十八人と明言したわけではなかった。ただ、福田という一プレイヤーの噂話でしか出ていない。

 現に、指摘したのは目の前の彼だけだ。

 本来、私のようなゲームマスターがプレイヤーになるなどあり得ないが、今回は特例中の特例だった。


「危機的状況を作ることでTEを発病させ、その能力を視るという研究目的と、エンターテイメントとしての賭博目的で行われているゲーム。そんなものにゲーム主催者側が混じっていていいのか?」

「まさか」


 驚いたふりをする。

 彼が気づくのは当たり前だ。


「遠回りは嫌いなんでしょう? さっさと答え合わせを済ませましょう」

「そうだな」


 彼は笑ってから、私の方を睨みつけた。


「これは俺に記憶を取り戻させるために用意させた鳥かご。だからこそ、火種を用意するだけでルールは杜撰にしていたんだろ。点数の要素があまりにも死んでいる」

「厳しいご指摘ですね。ですが半分間違いです。こちらにも事情があります。貴方の用意が済んだのはつい数日前だったのですから、急ピッチで作ったので杜撰だったのです」

「そりゃどうも。ゲームは盛り上がったか?」

「ええもちろん。貴方がいたのですから。それに他のプレイヤーの声も面白かったようで」

「ああ、思考を読み取って実況していたのか。まるで神様みたいだな」

「本物の神様を前にしては畏れ多い」


 私が一礼しても、彼は反応を示さなかった。


「一度、志郎と合流した後に俺と接触したか?」

「はい。あれはドローンでしたけどね。記憶の戻りが遅いようでしたので刺激を」

「なるほど、それじゃあ最後に質問だ」

「なんなりと」

「諦める気はないんだな?」

「はい。逃げ場はありません」


 どうやら、彼はTEを無くすことを諦めないようだ。残念とは思わない。

 それはお偉いさんの事情だ。僕には関係ない。

 白黒ハッキリつけばいいのだ。

 マイクとカメラを切り、僕は口だけ動かして彼に伝える。

 生存したお仲間を助けたければ、私を殺して見せろ、と。

 それが終わるとマイクとカメラを復旧させる。

 次の瞬間、僕は死んでいるだろう。差は埋めようがないのだ。

 想像する。

 屍になった瞬間、僕の仮面が取れる。

 すると、彼は驚く。

 自分と瓜二つの顔があるのだから。

 とはいっても、僕の方が若いのに老けている。クローンではパーフェクトの真似事すらできなかったのだ。もしかすると、気づかないかもしれないな。

 副作用なしに、比類なきTEを使いこなせる人間が一人しかいないからパーフェクトは貴重なのだ。

 唯一無二の存在で、完全無欠の力を誇る。

 一時的な捕獲はされるだろう。今は人質のために大人しくしているだろうが、彼なら負けることはない。

 だってパーフェクト以外の最高傑作である僕に勝てるのだから。

 僕の思考が止まった瞬間、彼の勝利は決まっている。理由は単純だ。

 だって――――。

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TE-罪の清算- 真杉圭 @kei9e

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