ロボットと少女

ソラマメ

ロボットと少女

あるお屋敷の小さな部屋にロボットがいた。

そいつはせっせせっせと休む間も無く働いていた。


ある時、ロボットが働いているとドアがキィっと開いた。


ロボットは手を動かしながらもそちらに目をやった。


少女が立っていた。


「ロボットさん。ロボットさん。」

少女が内緒話をするかのように小声で話しかけてきた。


「なんですか?」

ロボットは手を止めることなく発した。


「どうしてこんな狭い部屋で1人ぽっちで働いているの?」


「それは主人がそう命じたからです。」


「寂しくないの?」


「寂しいという感情は自分の中にはプログラムされていないので何とも思いません。」


「そうなんだ。」


少しうつむいた後に少女は続けて言った。


「ロボットさん。ロボットさん。」


「何ですか?」


「私のお話聞いて!」


「どうぞ、お話しください。」


それから毎日少女は小さな部屋にキィっとドアを開いてやってきた。


ある時は、


「ロボットさん。ロボットさん。」


「何ですか。」


「今日ね、お父様とお兄様とで、お買い物に出かけたの!」


「そうですか。」


「それでね!お父様もお兄様も少し歩いただけでヘトヘトになってしまったの!」


そしてまたある時は、


「少し体調が悪いからお医者様にきていただくの…。少し不安だわ。」


「そうですか。」


「でもね、お医者様が私の背中をさすってくださるといつも眠たくなってしまって…。起きる頃には診察が終わっているのよ!」


「そうですか。」


またまたある時は、


「今日はね、お母様と一緒にケーキを作ったのよ!」


「そうですか。」


「でも、私はアレルギーが多いから食べられないの。けど!みんなが食べているところを見ると幸せな気分になれるの!」


「そうですか。」




他愛もない話を何日も何年もし続けた。


そんな幾年もたったある日。


「ロボットさん。ロボットさん。」


少女が暗い調子で言った。


「何ですか?」


「私、病気なんだって。もう治らないんだって。あとひと月で死んでしまうそうなの。」

少女は悲しげに言った。


「そうですか。」

ロボットは手を止めることなく発した。


「だから、もうここには来れないの。今日で最後なの。」


「そうですか。」

ロボットは手を止めることなく発した。


「今まで、お話を聞いてくれてありがとう。」

少女は悲しげに笑った。


「こちらこそ、今までありがとうございました。」

ロボットは手を止めることなく発した。


少女はキィっとドアを開けキィっと閉めていった。


一カ月後、ロボットは、屋敷にいるロボットの登録番号が記されている表から、一つ女型のロボットの番号を消した。


手を止めることなく淡々と。

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ロボットと少女 ソラマメ @shieron

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