第90話 真実6

「……ふざけやがって」


陸人が拳をぎゅっと握りながら、呟く。


「貴方達には、本当に感謝しています。なぜなら、貴方達の凄まじい恐怖心が、この嘘だらけのゲームを『本物』にしてくれたのですから」


「……」


「……」


「……。結局、犯人は、誰だったんだよ?」


少しの間訪れた沈黙を破って、矢部君が静かに聞いた。


「瑞穂を殺した犯人ですね?では、4つ目の謎をお伝えしましょう」


ほとんど無機質な執行人の声に、わずかに熱がこもっている。


「早川瑞穂殺害の犯人。それは……黒崎秀一」


「!?」


「……なっ!!」


「黒、さきが……!?」


今までの謎解きの中で、この場の空気が一番凍りついた。


「最終ゲームで、黒崎自らが告白しました。瑞穂から別れを切り出されたことに逆上し、殺害したとね」


「あの馬鹿……なんてことを!」


行き場のない怒りを滲ませながら、九条さんが唇を噛む。最終ゲームで、彼と戦った私と、執行人しか知り得なかった事実を知って、その場にいたみんなが言葉を失った。


彼の冷たい眼差しと、人を蔑むような口元が、脳裏に浮かんでくる。


自分の欲望のためだけに、瑞穂ちゃんを殺し、犯行を隠すために、関係のない人間をも次々に殺した殺人鬼……。


「……で、その黒崎は、どこ行ったんだよ?」


陸人が押し殺したように執行人に聞いた。


冷徹な声が、答えを告げる。


「黒崎は……。私が殺しました」


「……!!」


あの後……彼は殺されたの!?


「あの扉の向こうにありますよ。彼の死体がね」


執行人は、ずっと右手に握っていた刀をすっと上げると、その刃先を大きな両開き扉に向けながら淡々と言う。


きっと……嘘じゃないのだろう。執行人の刀と、ローブを赤黒く染めている血は……おそらく、黒崎さんの物……。


「……」


また暫しの沈黙が、広間を埋め尽くした。


やがて、その沈黙に終わりを告げたのは、陸人。


「……お前は」


様々な感情が入り雑じったような瞳で、陸人が執行人に問う。


「お前は、一体……誰なんだ……?」


みんなが同じ思いで、一斉に執行人を見つめた。


「さて、これが最後の謎解きであり、このゲーム最後のダウトです」


扉を指していた刀を再び下に下ろすと、執行人は、空いた左手をローブにかける。


……私は。今までの謎解きの中で、この執行人が誰なのかを……。気づいてしまった。


この執行人は……。



「このダウトゲームの首謀者である私の正体は……」


今まで顔を覆っていた紫のローブが、ゆっくりと下ろされる。



「このアナザーワールドを作った、早川エンタープライズ社長の娘、早川瑞貴」



「……なっ!!」


「え……っ!?」


「何ですって……!?」


一斉に沸き上がる悲鳴に近い声。


やっぱり……そうだったんだね。


瑞貴……。


目の前にいるのは、血塗れのローブに身を包んだ、今まで見てきたのとは違う、凍てついた氷のような無表情の瑞貴。


無事なことを祈りながらも、この事実を信じたくなかったよ……。


私は、ふと体中から力が抜けていくのを感じた。


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