第87話 真実3
右手で握った長い刀の刃先を絨毯の上に滑らせるようにしながら、執行人が少しずつ、私達の方へと近づいてきた。よく見ると、濃い色のローブにも、そこらじゅうに血糊と思われる染みがついている。
「……矢部、田辺」
陸人が私を背中に庇いながら、小声で二人に呼び掛けた。
「野郎、武器は持ってるが1人、こっちは男3人いる。一斉に掛かれば、ワンチャンあるだろ?」
「……あ、ああ」
「えぇっ……?あ、はい……」
陸人の言葉に、矢部君と田辺君も、さっと構える。
「先手打って、俺が突っ込むから、お前ら、アイツを取り押さえろ」
戦闘体制に入った陸人が動こうとした、その瞬間だった。
「……皆様おめでとうございます」
「……!?」
執行人が不可解な一言を発する。
この状況に、あまりにも不釣り合いな言葉に、少しだけその場が静まり返った。
「……めでたい、だと?」
静けさの後、押し殺したような陸人の呟きが漏れ聞こえる。
「……ザケんじゃねーぞ、このサイコ野郎!!」
大広間に、陸人の怒声が響き渡る。
「無事だから済むって話じゃねー!!こんな人の心踏みにじるようなゲーム、何でやらせやがった!?」
みんなが奥底で抱いている感情を陸人が代弁した。陸人の言葉に、今度は執行人が動きを止める。考えるような間の後、執行人は言った。
「ゲームは終わりました。私は、あなた達に危害を加える気はありません 」
その場にいる私達の警戒を解こうとしたのか、執行人は静かに告げる。
「……ハッ、どうだかな?」
疑うような矢部君の言葉に、続けて田辺君も言った。
「そんな血塗れの凶器握って言われてもなぁ……」
全く説得力ないだろ、と言った風に、陸人達の警戒心は微動だにしない。
陸人が再び、臨戦体制に入った。今にも執行人に飛びかかるような気迫が伝わってきて、私は思わず陸人のシャツをぎゅっと握った。
「陸人……」
「なんだ、美羽」
「あの人……たぶん私達を襲う気がないよ」
「……はぁ?」
背中越しに、陸人が呆れたように少しだけ振り返る。自分で言っておいて、おかしいかもしれないが、だけど、本当にそう感じるのだ。
あんな物騒な凶器を持っているのに、あの人から伝わってくるのは、深い悲しみや喪失感……。
何でだろう……。改めて、この距離で執行人を見つめていると、上手く言えない感覚が、私の中で感じ取れるのだ。
「あの人……何か、私達に伝えようとしてるんじゃないかな」
「……?今さら、何を伝えたいんだよ!?」
陸人が苛立ちを含んで叫んだ時。
「このダウトゲームの『勝者』の皆さん。勝ち抜かれた暁に、今から、このゲームの真実をお伝えします」
執行人が静かに告げる。
「……真実、だと?」
矢部君の猜疑的な言葉に、執行人が小さく頷いた。
「はい。皆さんは知る権利がありますし、私も、私自身の口から伝えることが出来る今のうちに伝えたいのです」
意味深な言葉が、耳に響く。
「まず最初に、皆さんが一番知りたいこと。なぜ、このダウトゲームが行われたのか。この謎解きをしましょうか」
今までは恐怖に掻き消されていたけど、みんなが一番疑問だった理由。
それは、一体……?
すると、執行人は驚くべき真相を私達に伝えた。
「1つ目の謎。このダウトゲームの目的。それは……早川瑞穂殺害の犯人を暴き出すため」
「……なっ!?」
「……えっ!?」
この場にいるみんなが息を飲む。
「……どういうこと?全然意味がわかんないんだけど……?」
九条さんが呆然としたように、呟いた。
「犯人が誰なのかは、現時点では、私と笹原さんだけが知っています」
「……お前、知ってんのか?」
驚いたように、陸人が聞いてくる。
「……う、うん」
黒崎さんの歪んだ顔が、脳裏に甦ってきた。
「途中で、いったん敗者としてゲームから抜けられた方々は、自分が離脱した後のゲームの進行を皆さん知りませんからね」
「……だよな。俺は自分が負けた後、そもそもこのゲームが続いてんのかどうかも分からなかったしな」
矢部君が言うと、他のみんなも、頷く。
「だよねぇ……。自分がゲームに参加してる時は、自分自身が参加してるゲームと、モニター越しに見れたゲームに関しては知ってるけど。負けって言われて、床から落とされた後は、モニターも何も見てないもん」
宮野さんの言葉に、私はハッとした。
そうだったのか……。
最終ゲームまで参加した私は、初めて知る事実だった。
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