第86話 真実2
「陸人は、どこ!?」
陸人がいない……。かなり広い広間だけど、陸人の姿が見えない。
「そういえば……」
矢部君が周囲を見回す。
「あいつ、ゲームの時見てから、会ってないな」
陸人……。陸人は無事なの?
最後、無惨に手を切られた映像が脳内を埋め尽くして、呼吸が速くなる。
「陸人……陸人は、どこ!?陸人……!?」
一番無事でいてほしい……。
その時、私が入って来たのと同じ扉が、ゆっくりと開いた。
「!!」
開かれた扉の方に視線を向けると。
「……陸人!!」
「……美羽」
誰よりも会いたかった陸斗を見つけた瞬間、私は真っ直ぐ走り出していた。
「陸人……っ!!」
みんながいることも忘れて、私は陸人の体を抱きしめる。温かく脈打つ鼓動が、私の頬に力強く響いてくる。生きてる……。確かに生きてる……。
「美羽……無事で良かった」
そう呟くと、陸人は私の体を抱きしめ返した。
抱きしめ返されて、私はハッとする。
「陸人!手は……手は大丈夫なの!?」
私が慌てたように言うと、陸人はいったん私を抱きしめる腕を解き、両手を私の前に広げて見せた。
「ああ、大丈夫だ」
「……っ」
私は震える手で、陸人の両手を包む。
「良かったぁ……」
陸人の両手は、ちゃんと指先まであった。ずっと押し込めていた感情が溢れてきて、涙がぽろぽろと零れ落ちる。
「俺も、あの時ぜってー切られると思ったんだけど……なぜか切られなかった。振り上げられた大鎌は、俺の横ギリギリで外れて振り下ろされたんだ」
やっぱり訳が分からないけど……でも、陸人が無事なら、それでいい。
本当に……本当に良かった……。
「お前も助かったんだな」
矢部君が陸人を見つめて言う。
「ああ、お前もな。だけど……」
陸人が辺りをぐるりと見回した後、ぽつりと呟いた。
「瑞貴と、黒崎がいない……」
「そういえば……」
「確かに……」
陸人の言葉に、みんなが今一度広間を見回したけど、二人の姿はどこにもない。
「瑞貴……」
一戦目で敗者となった瑞貴は、モニターの中で、足を切られていた。
でも……ここにいるみんなが無事だったんだ。きっと瑞貴だって大丈夫だよね……?
一抹の不安を掻き消すように、心の中で祈った、その時だった。
ギィィィ………
私が入ってきたのとは別の大きな両開きの扉がゆっくりと開かれていく。
「瑞貴……?」
駆け寄ろうとした私の足は、その人物が誰なのか分かった瞬間、凍りついた。
「……!!」
「ひっ……」
「なっ……!?」
「いや……っ!」
その場の誰もが、声にならない声をあげる。
開いた扉の向こうに立っていたのは。瑞貴でも、黒崎さんでもなく。
血塗れの刀を床に引きずるようにしながら、こちらに近づいてくる、紫のローブを纏った、あの執行人だった。
「なん、なの……あれ?」
「刀……?」
「赤い……血……?」
「やっぱ……俺達、殺され……?」
無事だった安心感や喜びが一転、私を含む全員に、このゲームで植え付けられた、とてつもない恐怖心が、再び首をもたげてくる。
「……っ」
陸人が庇うように、私の前に移動した。
「……あの野郎」
陸人の背中が、恐怖なのか怒りなのか、小刻みに震えているのが分かる。
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