第85話 真実1

「今再会したばかりって……。じゃあ、みんなお互いに無事かどうかも分からなかったってことなの?」


「ああ」


そう答えた矢部君に、思わず聞いてしまう。


「矢部君は……狼みたいな獣の大群に襲われて死んじゃったんじゃ……?」


「あれなぁ……。いや、俺も、あの狼モドキが一斉に飛びかかってきた時は、マジで死ぬなと思ったけど……。実際は、あいつらスゲー人懐っこくて、めちゃくちゃ舐められまくってさ……。まいったよ、しばらく顔から服から、唾液まみれだわ、犬クサいわでさ」


「……そ、そんな!?だって、襲われた後、矢部君の死体がモニターに映って……!」


服も体もボロボロで、大量に出血していて、とても生きているようには見えなかったはず……!


「は!?死体って、何だよ?後ろ向きに倒れたから、かすり傷くらいは出来てるかもだけど……」


……どういうこと!?


頭の中が混乱して訳が分からない私は、今度は、九条さんにくっついたままの宮野さんに向かって言った。


「宮野さん。あなただって、焼けた鉄の靴を履かされて死んだんじゃ……!?」


「いやん、笹原さん、勝手に由奈を殺さないでよぉ~。でも、まあ、由奈自身も、ぜったい死んじゃうって思ったけど……」


眉を寄せながら、宮野さんは続ける。


「私も、あんな童話聞かされた後だったから、あっつ~い靴を押し付けられて死んじゃうって思って、あの瞬間いったん気絶しちゃったの。でもね、目を覚ましたら、足に履かされてたのは、ただの普通の靴でね。拘束も解かれてたから、薄暗い中、光を頼りに歩いていったら、この広間にたどり着いたの」


「……」


仮に生きていられたとしても、足には大火傷を負っているはずなのに、彼女の足は見たところ普通だ……。


ますます混乱した私は、次に田辺君に視線を向ける。


「田辺君だって、荊で両目が潰れたんじゃ……!?」


私が叫ぶように言うと、田辺君は目を見開き、驚いたた表情を浮かべた。


「ちょっ……俺までスプラッタっすか?まあ、でも、俺も死ぬかくらいに思いましたけどね、あの塔みたいなとこから落とされた時。けど、実際は違ってて」


「……?」


「笹原先輩も見てたかもですけど、あの塔から落ちた下に、びっしり荊みたいのあったじゃいすか?あれ、実は薄いビニールっぽい素材で出来てて、俺が落下した衝撃で、それらが破れたんすよ。で、破れた中から、甘い匂いの赤っぽい液体が大量に出てきて……。服にはつくわ、目にも入るわで、最悪っすよ……」


そう言われて、よく見ると、田辺君の服や頬には、拭き取りきれてない赤っぽい液体がまだ付着している。


そんな……?じゃあ、私がモニター越しに見ていたのは、一体何だったというの……?


「……九条さん。あなただって、熱い窯に入れられて、死んで……!」


絶対に生きているはずのない九条さんを見つめながら、私は独り言のように言った。


「……まあ、あなたの言うことも分からなくないわ。私自身、死を感じたから。でも、あの窯……実際は偽物ダミーだったのよ」


偽物ダミー……?


「私も一瞬本物の炎かと思ったのだけど……あれは、実は炎に似せた光でね。熱くも何ともなかったのよね。それで、入った扉は鍵がかかって閉められてしまったんだけど、窓があって、そこから出れたのよ。その後は同じよ。薄暗い通路をずっと歩いていって、この広間にたどり着いたわけ」


「……そんな、じゃあ一体……?」


このゲームは、何だったの?誰も死んでいないの?


「そういうあなたは、一体今までどうしてたのよ?確か2回戦に進んでいたわよね?」


九条さんが、不意に聞いてきた。


「私は……最終戦まで進みました……」


「えっ……そうなんすか!?相手は、誰……」


田辺君が言いかけた時、黒崎さんの恐ろしい罪の告白が、まざまざと甦ってきて、重苦しい記憶に、体が震えた。


だけど……。


そんなことよりも、私には、もっとずっと大切なことがある……。



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