第84話 混乱

そこには、酷い罰を受け、死んだはずのみんながいた。


「笹原さんも無事だったんだね……!」


涙目になりながら、宮野由奈がこちらに向かって小走りに近づいてくる。


「あんた、ちょっと腕を離しなさいよっ」


そう言ったのは、九条綾音。彼女は宮野由奈に、がっちりと右腕を掴まれていた。


「だって、だってぇ~……!九条先輩ともう二度と会えないって思って、ほんとにほんとに由奈悲しかったんですからぁ~!」


宮野さんは、大きな両目から、ポロポロ涙を溢しながら、九条さんをじっと見つめる。九条さんは、その様子を見て、ため息をついた。


「馬鹿ね……。二人とも無事だったんだから、もういいじゃないの」


「良くないですぅ……!絶対、絶対、もう二度と九条先輩と離れないって、由奈は決めたんですぅ!」


相変わらず腕をぎゅっと掴み、涙でぐちゃぐちゃになっている宮野さんに、九条さんは目を細める。


「……もう離れないから、大丈夫よ」


優しげな声でそう言った。


「いやあ、マジで死ぬかと思ったけど、助かって良かったっすね~!」


「だな、もう終わったと思ったけどな」


そう話しているのは、矢部真と田辺進也。

この二人も、死んでしまったかと思っていたけれど、見たところ目立った怪我もなく、元気そうだ。


「あっ、九条先輩も無事だったんですね!」


矢部君が九条さんを見て、声をあげる。


「あら、ごきげんよう」


何もなかったかのように、九条さんはクールに言い放った。


「ちょっとちょっと……『ごきげんよう』じゃないですよね?助かるために、俺をめちゃ蹴落としましたよね!?」


怒りを含んだ口調で言いながら、矢部君が九条さんに詰め寄ろうとする。


すると、宮野さんが、庇うように九条さんを自分の背中の後ろに回し、通行止めみたいに両手を横に、ビッと伸ばした。


「九条先輩をイジメる人は、誰だろうと許しませんからねっ!」


「いや、イジメとかじゃなくね、これ?」


「もうっ、あっち行ってくださいぃっ!」


小さな腕をぶんぶん振り回す宮野さんに、矢部君が困惑した表情をしている。


「ははっ……!九条先輩て、男にも女にもモテまくりじゃないすか」


いつも通りに笑う田辺君の笑い声を耳にした私は、さっきからずっと込み上げている感情を爆発させた。


「ちょっと、みんな!!」


突然の私の大声に、その場にいたみんなの動きがピタッと止まる。そして、その視線が私に集中した。


「どうなってるのよ、これ……!?みんな死んじゃったかと思ってたのに……何でもなかったみたいに普通にしてるし……!!ワケわかんないよ……っ。説明してよ……!?」


みんなが無事でホッとしてるのも確かなのに、状況が分からなすぎて、ついそんな風に叫んでしまう。


「いやぁ……説明してって、言われてもなぁ……」


矢部君が、髪をくしゃっと掻きながら、ぼそりと言った。


「こっちが聞きたいくらいだわ」


九条さんも、同じようにため息をつく。


「説明も何も、俺達も、ほんの少し前に、ここで再会したばかりなんすよ……」


田辺君がそう言うと、その場のみんなが頷いた。

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