第82話 winner
とうとう私達を映し出すモニターに表示されたタイマーが「00:00」になった。
「それでは時間です。勝敗を決めます」
冷たい声の後、モニターに結果が表示される。
『Winner 黒崎秀一
Loser 笹原美羽』
予想通りの絶望的な結果だった。
「黒崎さん」
私は向かい側に立つ彼に呼び掛ける。
「何だ」
無機質な目が、私を映す。
「お願いがあります。陸斗を……助けてください」
「……」
「陸斗を必ず助けてください!」
「君ではなく?」
「はい。私じゃありません。陸斗です……」
もう陸斗には数えきれないほど助けてもらったから。もし、1パーセントでも望みがあるのなら、陸斗に助かって欲しいの……。
「一応、覚えておこう」
黒崎さんがそう言った後、フロアに刑執行が言い渡される。
「敗者には、罰を」
足元の床が開き、私の体は光も差さない暗闇へと落下していく。
『美羽』
落ちていく、ほんの短い間、記憶の中の陸斗が、微笑みかけてきた。
……どこで、私達間違ったの?
……どこで、ボタンをかけ違えたの?
優しい瞳。
優しい声。
もしも、時間を戻せるなら……。
したいことは、たった一つだけ。
陸斗、私ね。
誰よりも……。
不意に体中を打ち付けられる衝撃が走って、私はそのまま意識を手離した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「黒崎秀一さん。おめでとうございます」
執行人が両手を広げながら、モニター越しに言う。
「今から勝者の特別ルームへ、ご案内しましょう」
すると、暗かったフロアが一気に明るくなった。見ると、目の前の壁に5つの扉が現れる。
「さあ、黒崎さん。お好きな扉を選んでお進みください」
「……」
好きな扉を選べだと?何かの罠か?
俺は腕を組むと、やや考えるように、その場に留まった。
「どうしました、黒崎さん?ダウトゲームはもう終わったのですよ?罠も仕掛けもありません。何もありませんが、扉を選び進まないと、このアトラクションから出ることは出来ません」
相変わらず上から目線の口調に、軽く舌打ちする。胡散臭いが、あの扉を開けるしか、ここを出られなさそうだ。
俺は仕方なく、真ん中の扉を開けることにした。警戒しつつ、ゆっくりと扉を開け、中に入る。
「!?」
瞬間、足元に何かが絡み付くと同時に、床がぱっくりと割れて、下に落下する。
「くそっ……!」
成す術もなく落ちるが、下のフロアの天井に、足に絡まったベルトのような物で逆さ釣りの状態になった。
「ふふふふ……」
突然響いてきた声に視線を向けると、紫のローブの執行人が、側に立っている。
「あの過酷なゲームを勝ち抜いたのに、こんな仕掛けにあっさり引っ掛かるなんて。君も案外可愛いね。勝ったと思って、気を抜いてしまったかな?ちなみに、どの扉を選んでいたとしても、君は、二度とここから出られない」
「罰を受けるのは、敗者じゃないのかよ」
俺は毒づいた。
「このゲームの本当の『敗者』は、君だよ」
「なに?」
「君は『青髭』の話を知っているかい?あるところに、四人兄妹が暮らしていたが、末の妹が王に気に入られて花嫁になる。ある時、王は旅に出る際、その妻に鍵を渡す。絶対に開けてはいけない部屋の金の鍵をね。しかし、妻は見てしまう。たくさんの女の死体がつるされた禁断の部屋を」
執行人は不気味に笑う。
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