第75話 降りやまぬ雨11

手にとって確認した画面には。


「瑞貴からだ」


俺の言葉に、瑞穂は、ホッとした表情を浮かべると、スマホを受け取った。


「もしもし、お姉ちゃん?うん。今ちょっとだけ遠出してるの。うん、うん。大丈夫だよ。うん、またね」


瑞穂は電話を切ると、再びスマホをバッグに仕舞う。


「発信元の分からない着信はそれとして……瑞貴からの連絡も最近さらに増えたな」


「うん……。帰りが遅いとか、いつも誰と電話してるの?とか、前よりどこかに出掛ける回数が多くなったね、とか。たぶん秀一君との付き合いの行動が、今までと違う、おかしいなって、思ってるのかも?」


「過干渉だな」


「心配性なんだよ、お姉ちゃん」


普通の心配性の度を越えていると思うが。


互いに依存し過ぎなんじゃないか?


ふと先程の非通知の着信を思い出す。


……まさか、あれも瑞貴が?


いや、非通知にする意味がないか。


それにしても、瑞貴はどうでもいいが……。


俺がいるのに、瑞穂はなぜそんなに瑞貴を必要とするんだ?


俺がいるのに。



それから二学期に入り、秋の兆しが見え始めた頃。


「秀一君……。もしかしたら、勘違いかもしれないけど、時々誰かに付けられてる気がする……」


不意な言葉に、俺は辺りを見回した。


「今ここに来るまでは、どうだった?」


「大丈夫……だったと思うけど、分からない……」


「考えすぎ、かな……?でも、変な非通知の着信も、まだ来るし……。まさか、同じ人、じゃないよね?」


青ざめた顔で瑞穂は震えだした。


「付けられているように感じるのは、どういう時だ?」


「うんと……学校から帰る時かな?」


「そうか。分かった。瑞穂が下校する時、俺が離れたところから見張る。明日はどうだろう?」


「うん、いいよ……」


その後はあまり会話も弾まず、そのまま瑞穂と別れた。



翌日。学校が終わると、その足で榊原中に向かった。


あらかじめ瑞穂には、俺から連絡があるまで、校内で待つよう言ってある。榊原中の門の側まで来たので、瑞穂に連絡した。


「今、榊原中の側にいる。見張ってるから、下校しろ」


「うん……」


通話が切れて、少し経つと、瑞穂が校門から出て来る。俺は、一定間隔を保ちながら、瑞穂を尾行した。駅前まで尾行を続けたが、不審な人間は見当たらない。


駅から少し離れたところで、瑞穂と合流し、いつもの川辺に来た。


「秀一君、どうだった……?変な人とかいなかった?」


「いや、見当たらなかったな。今日はこれまでに非通知の着信はあったか?」


「うん……。何度かあったよ」


そう言って、学生カバンからスマホを取り出し、俺へ渡す。俺は瑞穂にかかってきた着信履歴を見た。


「……」


今日すでに発信元不明な非通知の不在着信が5件入っている。それらの着信のあった時間を見つめていると、その表示時間に、なにか規則性があるように思えてきた。


(この5件の時間は……)


「そうか……」


「……え?」


俺の呟きに、瑞穂が眉根を寄せる。俺は、今過った推測が正しいかを判断するため、さらに昨日以前の非通知着信の履歴の表示を確認した。


やはりだ。休日以外の昼間の着信時間は……。


「瑞穂。もしかしたら、この非通知着信を繰り返してるヤツは。榊原高校の人間かもしれない」


「……えっ!?」


「今までの、平日の非通知着信履歴を見てみろ。数分間は前後するが、みな決まった時間内から掛けられている」


俺が画面をスクロールさせながら瑞穂に確認させると、彼女は小さな声を上げる。


「そう言われれば……そうかも?」


「この平日の着信履歴の表示時間は、全部榊原高校の休み時間に当てはまっている」


「そ、そんな……っ」


「この回数で、偶然ということはないだろう」


教師なら、休み時間には電話出来るかもしれないが、榊原中の下校時間には、まだ業務があるため尾行は出来ない。生徒で間違いないだろう。


誰だ?


時折、高校でも問題が起きているが、そういった類いの問題は聞いたことがない。


「何度か瑞穂を尾行していれば、そのうち見つけられるだろう」


「ありがとう、秀一君。ごめんね、面倒事に巻き込んで」


瑞穂の言葉に、俺は小さく微笑む。


何を言ってるんだ、瑞穂。


お前を付け回し、恐怖を与えるヤツなど許さない。


捕まえたら、まともな日常生活を送れないようにしてやるから、安心しろ。



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