第74話 降りやまぬ雨10

相変わらず瑞貴から瑞穂への連絡は多く、瑞穂の話では、二人で出掛けることも多いようだった。


この間、駅ビルで偶然、瑞穂が瑞貴と一緒にいるところを見かけた。


俺は書店を見ようと来ていたのだが、二人はその隣にある女性用の服のショップを見に来たようだった。俺は二人に気づかれないように、少し距離を置いて観察する。


白いシャツにジーンズ、スニーカーという格好の瑞貴に対し、瑞穂はレースのついたキャミソール、短めのスカートにミュールという組み合わせ。


瑞貴に腕を絡ませて歩く瑞穂の雰囲気は、例えはおかしいが、まるで恋人同士のようにすら見えた。


いつも俺に向けていた笑顔が、瑞貴たにんに向けられているのを見ると、胸の奥に鋭い熱が走る。


「これとか、どうかな、お姉ちゃん?」


姉に絡めていた腕を解くと、瑞穂が近くにあった服を取り、体に当てた。


「う~ん、そうだな……」


瑞貴が他の服を取り、すでに当てられた服の上に、それを重ねる。


「瑞穂には、こっちの方がいいんじゃないかな」


「あ、うん。確かにそうだね。こっちのがいいかも」


瑞穂は自分が選んだ服を元あった場所に戻した。


「こっちを買うね」


姉の選んだ服を両手で持ち、瑞穂は笑顔で言う。


「じゃあ、それ持ってるから。後で買ってあげる。もっと他のも選びなさい」


「うん」


瑞穂は服を瑞貴に預けると、また腕を絡ませて売り場を見始める。


姉妹なんて、こんな感じなのだろうか。


仲が良いのは確かなのだろうが、あの連絡頻度といい、ずっと腕を組んで歩く姿といい……。


それに、瑞貴の口調や態度は、普段学校で見かけた時の、おとなし目な印象と違い、堂々としていて、少し別人のように感じる。


その後も秘かに、二人を観察していたが、服などを取る時以外は、片時も離れず腕を組んでいた。


俺は、書店は見ずに、その場を去った。



そして、夏も終わりに差し掛かる頃。


市外のカフェで瑞穂と会っていた時。


「あのね、秀一君」


「どうした」


どこかいつもより暗い表情の瑞穂に聞き返す。


「最近、非通知の番号から電話が掛かってくるの……」


そう言うと、俺にスマホを渡した。画面を見てみると、俺や瑞貴の着信記録に混じり、非通知の不在着信が何件も入っている。


「何か心当たりは?」


瑞穂は首を振った。


「全然ないよ……。最初はたまたかなって思ったんだけど、それから何回もかかってくるようになって……」


「電話を取ったことは?」


「ないよ……。怖くて取れない」


「正解だな。何が目的か分からないが、うかつに繋がらない方がいい」


瑞穂が、こくりと頷く。


「他に変わったことは?」


「……特に浮かばない」


俺は彼女にスマホを返した。


その瞬間。


「♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪」


瑞穂がびくりと震えて、思わず手にしかけたスマホを床に落としてしまう。


床の上でカタカタと鳴り続けるスマホに、俺はゆっくりと手を伸ばした。

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