第71話 降りやまぬ雨7

(あいつだな)


教室からグラウンドを見下ろすと、1年が体育の授業をしていた。その中に、「早川」のゼッケンをつけた生徒を見つける。遠目に見てだが、すらりと背が高く、長い髪の瑞穂と違ってショートの髪だった。


体育教師のホイッスルを鳴らすのと同時に、早川は走り出し、他の走者を引き離して、1位でゴールしていた。


(文武両道か)


なるほど、瑞穂から聞いてきたように、優秀な姉らしい。他の走りきった生徒達が苦しそうに息を切らしている中、早川はまだ余力があるのか、たいした息切れもしていないように見えた。


その日の昼休み。


学食で、コーヒーとサンドを食べていると、隣のテーブルから声が響いてきた。


「ねぇ、早川さんて、前はどこの学校だったの?」


肩まで伸ばした髪の女子が、向かいに座る女子に聞いている。


「……」


見ると、向かい側に座る女子は、早川瑞貴だった。


「他県の学校です」


控えめな声でそう答えると、瑞貴は手にしていたパンを口にする。遠目に見た時は、瑞穂とは全然違うと思ったが、近くであらためて見てみると、姉妹というだけあって、やはり顔立ちは似ていた。


「早川さんて、勉強も運動も出来て羨ましい。私なんかどっちも得意って訳でもないし」


その女子がそう言うと、隣に座る長身の快活そうな男子が笑う。


「早川さん、こいつに勉強教えてやってくんないかな?中学の時も、たいがいついていけてないのに、高校入って、テストの点マジでヤバイんで」


すると、肩まで伸ばした髪の女子が頬を膨らませながら言い返した。


「何よ!陸斗だって、この間、数学追試受けてたじゃない?」


「はぁ?いや、あれはだな、解答欄途中で一個ずつズレていって、そんで点数落とした」


「えぇ~、そうなの?勿体ない!最後見直しすれば、そんなの気づくと思うけど」


「そんなダルいことするかよ!解き終わったら、寝るに決まってんじゃん」


「私は、いっつも時間いっぱい見直してるよ」


「逆に見直ししてて、あの点な?」


「もう、何よ!」


向かい側の二人のやり取りに、瑞貴がくすりと笑った。


「村上君と笹原さんて、仲いいんですね」


その言葉に、肩まで伸ばした髪の女子が顔を紅潮させながら否定する。


「な、仲良くなんかないからねっ。えっと、そう腐れ縁ってやつよ!小学校から同じってだけで、そんな変な関係じゃないからね……!」


「……んだよ、お前、変な関係って。逆に怪しいだろ?」


二人のやり取りに、瑞貴はまた笑った。


(瑞穂から聞いていた話だと、気が強そうなイメージだったが。そうでもないな)


向かいに座る二人のやり取りに、控えめな発言をし、物腰も柔らかい。


文武両道で性格は穏やか、か。瑞穂がシスコンになるのも分かる気はする。


俺は、飲み終った缶や袋を手にすると、学食を後にした。






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