第62話 宣言

「それでは最終ダウトゲーム・スタート」


無慈悲な声と共に、私達が映し出されたモニターに表示されていたタイマーが「15:00」から「00:00」に向かって、残り時間を刻んでいく。


すると、黒崎さんが突然口を開いた。


「笹原さん」


不意に名前を呼ばれて、両肩がびくりと震える。


(何!?早速ダウトするの……!?)


背中に戦慄が走った。


でも、彼が発したのは……予想外の言葉。


「最初に言っておく。君は、このゲームに絶対に勝てない」


「……!?」


な、何よ……。絶対って……。


額を冷たい汗が流れる。


「それを踏まえた上で、君は君なりのダウトをするのか、それとも何もしないのか。君に任せるよ。残り時間を君の好きなように使うといい」


静かにそう言うと、黒崎さんは腕を組んで、じっと私を見つめた。


残り時間は、私の好きにって……。


何なのよ?どういうことよ?


「そ……その手には乗らないですから……。そうやって、私に先にダウトさせる気なんですよね?自分が勝つために……!」


出来る限り強気な言い方で返す。もちろん、本当は心臓が破れるくらいにドクドクと波打っていた。そんな精一杯の威勢を張る私を冷たい眼差しで見つめたまま、黒崎さんは言う。


「どう取ってもらっても構わない。今言ったことは事実だから」


全く動じていない声色。


(……こんな風に脅して、私を動揺させて負けさせる気なの!?)


すでに私は頭がパニック状態だった。


(今度は負けると、どんな罰が……?)


すっかりマイナスな方向しか考えられなくなっている頭の中に、罰を受ける想像ばかりが押し寄せてくる。


(青髭なんて話、知らないよ……!)


知っていたら知っていたで怖いに違いないけど、話すら知らないことで沸き上がる恐怖もある。その恐怖を脱ぐように、私は黒崎さんを睨んだ。


「わ……私も最後まで取っていたダウトがあります……。あなたのダウトを聞いてから、私のダウトを言いますから」


強く言っているつもりでも、やっぱり唇が震えてしまった。そんな私に気づいていないのか気づいているのか、黒崎さんは静かに言う。


「そうか」


ただ一言発すると、そのまま私を見つめ続けた。細いフレームの眼鏡の奥の瞳は、鋭い刃のような冷たい光を帯びている。


「……」


彼の真意が分からないまま、時間だけが、もぎ取られていく。


(陸斗……)


失った両手を庇うようにうずくまる陸斗の姿が、頭を過る。


(私……どうすれば勝てるの!?どうすれば陸斗を助けられるの……!?)


何の策も浮かばないまま、私達を映すモニター画面の時間表示だけが、刑執行までのカウントダウンを刻んでいく。


(逃げたい……!)


でも、逃げれない。


そして、逃げれば、陸斗を助けることが出来ない。


あんな罰受けたくない……!


でも、何のダウトも浮かばない……!


お母さんの恋人だった安田さんのこと。


真理ちゃんのこと。


私の中で、ずっとずっと抱えてきた秘密は、あの二つだけ。


他の秘密なんて……。

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