第61話 最終ゲーム
ラプンツェルのアトラクションから出ると、向こうのアトラクションから黒崎さんが出てくるのが見えた。
「……」
これから対戦するのかと思うと、何も言葉が出てこない。少しの間、立ち尽くしていると。
「行こうか」
彼がスマホを軽く掲げながら言った。おそらく、そのスマホの画面は私と同じく「青髭」というアトラクションの地図だろう。
私の返答を待たず歩き出す黒崎さんの後ろを私も歩き出した。
(……黒崎さんは、最後のダウトをもう用意してるんだよね?)
さっきのゲームで彼は言っていた。
(ずいぶん自信ありげだったな……)
そんなに相手が勝てないほどのダウトを持ってるって言うの?
彼が2ゲームで出したダウトをもう一度思い浮かべてみる。
テストのカンニング……。
同級生を不登校にさせた……。
どちらも、普段の彼からは意外なダウトだった。特に2回目のは……脅して学校に来れなくさせるなんて、何か暗い悪意を感じる。校内の女子達の絶大な人気を得ている彼だけど、なぜか好意的に思えなかったのは、そんな彼の隠された一面をどこか無意識に感じていたからかもしれない。
「ここだな」
黒崎さんの声に、はっとすると、前を見た。前方に、うっそうとした木々が覆い被さるように生えた建物がある。
「入るぞ」
相変わらず冷静そのものの声が響くと、彼は先にアトラクションへと入っていった。
(何で、あんなに落ち着いていられるのよ?)
九条さんと同じ感想を心の中でぶつけながら、私もその背中に続いていく。建物の入り口同様、長いトンネルのような暗い通路も、うっそうと茂る木々が両端を埋め尽くしていた。
一番突き当たりまで行くと、他のアトラクションで見た物よりも豪奢な両開きの扉が現れる。
そして、黒崎さんは躊躇いもなく、その扉に手を掛けると開けた。
「……っ」
今までは扉の向こうのフロアは明るかったのに、このフロアは薄暗く、壁に掛けられた蝋燭の炎だけが唯一の明かりだった。
薄闇の中、またあのモニターがぼんやりと見える。少しすると、上下二つのモニターに明かりがついた。
でも、どちらのモニターに映る画面も、その場所自体が薄暗い。
「ようこそ、最終ステージへ」
もう聞き慣れてしまった冷たい声が、薄闇の中、響き渡る。
ローブの執行人が映った場所も、明かりが落とされていて、執行人のすぐ側に置かれた燭台の炎だけが揺らめいていた。
「過酷なこのゲームを勝ち抜いた、お二人が、最後にどのようなダウトを出し合うのか。とても楽しみにしております」
……何が、楽しみよ?ふざけないでよ!!
怒りと恐怖が体中を駆け巡る。
(陸斗……!)
ぎゅっと両手を握りしめ、私はさっきの陸斗とのゲームを思い出した。
自分が死ぬかもしれない罰を受けるのが分かっていながらも、私を助けるために負けることを選んだ陸斗。
今の私が罰を受けたくない理由は、ただの恐怖だけじゃない……。
早く陸斗を助けたい。
両手を失っただけなら、まだ生きている可能性がある。
早く……少しでも早く、負傷した陸斗を助けたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます