第60話 青髭

昔、とある森の中で、男と家族が暮らしていました。男の家族は、息子が三人、娘が一人。娘はとても美しい容姿でした。


ある日、国の王が馬車に乗り、森を訪れました。


王は娘を見ると、たいそう気に入り、連れて帰って妻にしたいと言いました。父親は喜びましたが、娘は嫌がりました。なぜなら、その王は、青々とした髭に顔が覆われ、顔色も青白かったからです。


しかし、父親の薦めに、娘も承諾しました。


そして、三人の兄達に、娘は「お願いです。私が呼んだら、来てくださいね」と頼みました。それから娘は青髭の王と共に、城に向かいました。


こうして、娘は、青髭の妻として、城に住み始めました。その生活は豪華絢爛で、食事も衣服も、今まで見たこともないものばかりです。


しかし、娘は幸せを感じることは出来ませんでした。青髭のことをどうしても好きになれなかったのです。


そんなある日のこと、青髭の王は家来を引き連れて旅に出ることになりました。


出発の前夜、青髭は娘に言います。


「愛しい妻よ。私の留守中、城のあらゆる場所を見て回るといい。だが、この金の鍵で開ける一番奥の部屋だけは入ってはならない。もし、入ったなら、お前は死ぬことになるだろう」


そうして、青髭は娘に城の鍵の束を預けました。


次の日、王が旅立つと、娘は退屈で、城中の部屋を見て回ることにしました。


どの部屋も豪華で見ていて楽しかった娘でしたが、『見てはいけない、あの部屋』が気になって仕方ありません。


娘は考えました。一度部屋を見て、鍵を元通り掛ければ、誰にも気づかれないと。


娘は薄暗い廊下を一番奥まで進み、突き当たりの部屋の扉を金の鍵で開けました。


開いた扉の向こう側は真っ暗です。恐る恐る踏み出した足の下で、


ピチャリ


音がします。


なぜか生臭い匂いも、辺りに漂っています。


暗闇に目が慣れてくると、壁に何やらたくさんの飾り物が吊るされていることに気づきました。


「何かしら……?」


娘が不思議に思い、飾り物に手を伸ばします。すると、


「ひぃぃぃぃぃぃ…………っ!」


驚きのあまり、悲鳴をあげました。


壁に吊るされていたもの、それは……。


たくさんの女性達の死体でした。


青髭は……異常な殺人鬼だったのです。


娘は恐怖に手が震えて、鍵の束を床に広がった血溜まりに落としてしまいました。


慌てて娘は鍵の束を拾い上げると、その部屋の鍵を再び掛けて、自分の部屋にもどりました。


しかし、ふと気づくと、手も鍵も血だらけです。娘はハンカチで手と鍵を拭きましたが、鍵についた血だけが、どんなに拭いても落ちません。


翌日になり、青髭が城に帰ってきました。


そして、青髭は娘に、鍵の束を返すように言います。


言われた通り、鍵は返されましたが、金の鍵だけがありません。


「金の鍵は、どうしたのだ?」


青髭は冷たい声で、娘に聞きました。


「昨日、外で金の鍵を眺めていましたので、そのときに落としてしまったのかもしれません。また探しておきます」


娘は、そう答えましたが、青髭はこう言い放ちました。


「お前……あの部屋を見たな?」


娘は必死に言い訳を重ねましたが、青髭は信じません。


「見ていないと言うなら、あの鍵を今すぐに持ってこい!!」


青髭の冷酷な声に、娘は怯えながらも、金の鍵を持ってきて渡しました。


鍵には、べったりと血がついています。


青髭は冷たい微笑を浮かべると、娘の首をつかみ、剣を振り上げました……。

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