第58話 手
「悪魔は朝早く現れたが、娘に近寄れないので怒って粉屋に言った。『体を洗えないように水を娘から離せ!』粉屋は恐れて言われたようにする。次の朝、悪魔はまたやってきたが、娘は両手で顔をおおって泣いていたので、手は清められ綺麗だった。またしても娘に近づくことができない悪魔は激怒し、粉屋に言った。『娘の手を切り落とせ!そうしないと、お前自身を連れていくぞ!』」
……手を?
嫌な予感がして、円の中に腰をついたまま、壁に設置されているモニターを見上げると。
さっきまで私と陸斗が映っていた画面には、それとは違う映像が映っていた。
それは、どこか田舎のような風景。向こうに木で出来た小屋が見える。映像が小屋に次第に近づいていくと、風車がくるくると風に回っていた。
そして、その小屋の向こうに一本の木が見えてくる。木と重なるように、人影が見えた。
そして、映像が徐々に、その人影に近づいていき……。
「……!?」
思わず私は立ち上がった。
その人影は……木に縛られている陸斗。
「陸斗……!」
陸斗は座った状態で、一本の木に縛られていて、その両手には、木製の板の枷が取り付けられていた。気絶しているのか、両目は閉じられて、頭は下を向いている。
(手枷……)
童話と陸斗の状態が重なり、嫌な予感が胸にじわじわと広がっていった。ハッとして、壁の一番上のモニターを確認すると、悪い予想通り、執行人の姿がない。
「ん……」
陸斗の口から小さな声が漏れると、ゆっくりと瞳が開いていく。
「なっ……!?」
そして、自分の置かれている状況に気づき、目を見開いた。
「んだよ、これ……!」
両手を固定している枷を見て、顔を歪める。
陸斗の背後に、人影が現れた。
「クソッ……!」
陸斗は体を動かそうとしたけど、何重ものロープで木に縛られていて容易に解くことは出来ない。今度は手枷を外そうと、右手と左手の間の板を足で蹴って折ろうとしたけど、こちらも簡単に壊れそうもない。
「ぐっ……!」
今度は手枷を地面に叩きつけて壊そうとすると、背後に迫っていた人影が冷淡に声を掛けた。
「無駄ですよ。そんなことをしても」
「……!?」
陸斗が驚いて、顔だけ後ろを振り向く。
そこには、頭から足先まで長い紫のローブに身を包んだ執行人が陸斗を見下ろしていた。
「てめぇ……!」
自分を睨みつける陸斗に、執行人は冷徹な言葉を投げる。
「悪魔に脅された粉屋は、言われるままに娘の両手を切り落とした。我が身可愛いさにね」
「くっ……!」
陸斗は一層焦った表情で、手枷を何度も地面に打ち付ける。
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