第57話 悪魔の取引

『Winner 笹原 美羽


 Loser  村上 陸斗』



そ、そんな……!


モニターから視線を陸斗に移す。


「陸斗……ごめんなさい!」


言いながら、涙が零れてきた。


「美羽。あと一つだけ……」


陸斗が真っ直ぐ私を見つめながら言う。


「さっきの小5の時の話だけど……。美羽は悪くない。それから、仮に美羽が助けを呼びに行ったとしても……助かってなかったよ、あの日の豪雨じゃ……」


……陸斗。この話が聞けて良かったと言ったのは、私の中の罪悪感を消せるから、ってことだったんだね……。


こんな時なのに、陸斗は、私のことを想ってくれてる。


こんな私を……。


今なら、はっきり分かる。


気づくのが遅すぎたよ……。


「では、敗者に罰を」


私達の感情など、ゴミ同然のような冷たい宣告が響く。


「美羽。勝って……生きて帰れ!!」


「……っ」


次の瞬間。


陸斗の体は、開けられた床の下に広がる暗闇へと堕ちていった……。


「ああああ……っ!!」


私は悲しみのあまり、その場に崩れる。


(どうしよう……!!どうしよう……!!)


絶望だけが、心を埋め尽くした。


「貴女は、『手なし娘』の話を知っていますか?」


感情のない声が、広間に響く。


「この話は、『赤ずきん』や『シンデレラ』のように広く知られた話ではありません。ですが、重要な教訓を聞いた者に与えてくれます」


自分自身の泣き声に混じって、聞きたくもない暗黒の童話が耳に流れ込んでくる。


「『手なし娘』の話は、こうです。昔、あるところに、とても貧しい粉屋が住んでいた。あるとき、森へ木を取りに行くと、老人に出会う。その老人は、こう言った。『お前を金持ちにしてやろう。風車小屋の後ろに立っているものをくれると約束すれば』と。粉屋は、風車小屋の後ろに立つりんごの木だと思い、了承した」


……そんな話知らない。


「すると、その老人は『三年経ったら、とりにくる』と言うと行ってしまった。粉屋がうちに帰ると、妻が出迎えて言う。いつのまにか、家の中の箱や引き出しが、お金でいっぱいなのだと。それに、粉屋が答えた。『森で会った老人が、財産をくれると約束してくれた。おれは、お返しに、風車小屋の後ろに立っているものをあげると約束した。りんごの木をあげても問題ない』と」


広間に、不気味な童話が響き続ける。


「それを聞いた妻は、怯えて言った。その老人は悪魔で、りんごの木ではなく、風車小屋の後ろに立っていた娘のことを指していたのだと。粉屋の娘は美しく信心深かった。それから三年後、悪魔が迎えにくる日になると、娘は体を綺麗に洗い、チョークで自分のまわりに円を描いた」


悪魔なんて……。


気持ち悪い……。

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