第56話 君のためのダウト

「何だよ……ハハ……そういうこと、か」


「……陸斗?」


「美羽。あの日、俺と智子が二人で会う予定なんてなかったよ」


「えっ?」


「あの日だけじゃない。智子と二人で会う約束なんてしたことない。……一度だけ除いて」


「一度だけ?」


「あの日、智子のこと好きだって言ったけど……あれは嘘だったと謝った日を除いて」


「えっ……」


二人の間に、そんなやり取りがあったなんて、そんなの聞いてない……。


「智子に泣かれたよ。俺は最低だって。それは否定できないよな。確かに、俺は最低だ」


「……」


「智子に言われた。すぐに美羽と付き合うなんて許さないって。俺も、智子に悪いと思ってたから、お前に言えなかった。ずっと」


待って……。


じゃあ、陸斗は……。


「あの時も今も。俺が好きなのは智子じゃない。美羽、お前だ。それが……俺のダウト」


…………。


そんな……。


驚きと嬉しさが混ざりあって全身を駆け巡った。


知らなかった。


陸斗が私を好きなんて……。


「このプレオープンのイベント一緒に行って、お前に気持ち伝えるつもりだった。まさか、こんな形で伝えるとは、全く予想してなかったけど……」


陸斗の言葉に、一瞬沸き上がった喜びが現実に引き戻される。


「でも、大丈夫だ、美羽。お前がきっとゲームに勝つ」


「……えっ?」


「宮野との対戦の時は、とにかく、宮野と俺とダウトを出し合って……どっちかが勝って、どっちかが負ける。もう、それで仕方ないって割りきれた。だけど……」


陸斗が真っ直ぐ、私を見つめる。


「2回戦のゲーム表を見た時、相手がお前だって分かって……。何でだよ、って心の中で、何回も叫んだよ」


同じだ……。私と。


「俺だって、あんな残虐な罰受けたくなんかない!でも、お前が、あんな罰を受ける想像した時……。自分の体が引きちぎれるくらいの痛みを覚えたよ。それだけは絶対にダメだって……そう思った。だから、決めたんだ。お前を必ず勝たせるって」


「……!」


じゃあ、陸斗は……。


私を勝たせるために、ダウトを迫ったの?


「俺が例え何のダウトをしなくても、お前が何かダウトしない限り、お前も罰を受ける……。だから、お前には必ずダウトさせる必要があった」


じわじわと陸斗の本当の想いが伝わってきて、それと同時に、取り返しのつかない思い違いをしていた自分に気づいていく。


「りく、と……私……!!」


私は、何て浅ましい考えを……!!


「お取り込み中、申し訳ありませんが、ダウトが出揃ったと判断して宜しいですか?」


私達のやりとりなど、どうでもいいといったような冷徹な声が響いてきた。


陸斗は、その声の主が映るモニターを見上げ睨み付けると答える。


「ああ、そうだ!」


「では、勝敗を決めます」


ダメ……!このままじゃ、陸斗が……!!


「ま、待って!私のダウト取り消しさせ……っ!!」


私の声も虚しく、モニターに勝敗が表示された。

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