第55話 あの日の本当

「えっ……?」


私の話が終わると同時に出された言葉に、驚く。


(陸斗……?)


どうして笑ってるの?


私のダウト、そんな笑える話じゃない。


(まさか、やっぱり……)


私に先にダウトさせて、自分に有利なダウトを探してた?それで、私がダウトしたから、早速ダウトしてきた?


(そんな……)


私は、陸斗の思惑にはまっただけなの?


向こう側のヘキサグラムの中で微笑む陸斗の顔が、不気味に見える……。


(陸斗は、どんなダウトを……?)


もう私のダウトは取り消せない。後は、陸斗のダウトで勝負が決まるんだ……。


鼓動が激しくなり、手と脚が小刻みに震える。そんな私をまっすぐ陸斗が見てくる。


「中三の時のこと。話すよ、これから……」


「……?」


中三の時?陸斗が智子にコクった以外に、何かあったっけ?


私の知らない重大な秘密が、何かあるの……!?


次に語り出す陸斗の話に、緊張が走った。


「中三の時。オレ、美羽達の教室でコクったよな?」


……その話?


「あの時、オレは言った。智子が好きだって」


「何で、その話、また蒸し返すのよ。もう、いいよ……。もう、聞きたくない……!」


私は両耳を手で塞いだ。


こんな時でも、あの瞬間を思い出すと、痛みが胸を走るのに……!


「頼むよ、黙って聞いててくれ!もう……」


陸斗は、そこまで言うと、悲しそうに顔を歪めながら言った。


「伝えられないかもしれないからさ」


……陸斗?


「オレは確かに、あの頃。好きなやつに会うために、毎日違う教室に行ってた。ただ会いたかった……。それで、あの日、不意に好きなやつ言えって、みんなに急き立てられて……」


「……だから、智子が好きなんでしょ?死んだ今だって」


「違う……!頼むから、聞いてくれ!!」


陸斗がなぜか必死になって、私に訴えかけてくる。


「あんな風に茶化されながらコクりたくなんかなかったし……。そいつは、オレのこと、どこか避けてるみたいだったから、自信もなくて……。だから、あの時、言っちまったんだ」


陸斗の瞳が苦しげに、私を映す。


「智子って……」


「……」


……どういうこと?言ってしまったって……まるで、本当はそうじゃないみたいな……。


「だって、お前……何かオレに素っ気なかっただろ?あの日以降」


「あの日、以降って?」


「お前が、母親に遊園地行く予定ドタキャンされたって言って、オレと智子の三人で遊んでから、その後だよ……」


「それは、その時……智子に聞いたから。本当は、陸斗と二人で遊ぶ予定だったのにって……」


「……は?何だよ……それ?」


「それ聞いて、私……陸斗と智子はお互いに好きなんだって思って……。それで、あんまり陸斗と仲良くし過ぎちゃダメだって……気を付けてたから」


私が、そう言うと、陸斗は少しだけ考えるような表情をした後、自嘲気味に笑った。

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