第53話 雨2

大雨の降りしきる中、私達は市内を流れる川のところまで来た。


一層激しさを増す雨の中、真理ちゃんが言う。


「アンタさ、村上君に私のことチクったでしょ!?」


豪雨と激しく流れる川の音を縫って、彼女の怒声が響いた。


「そ、そんなことしてない……!」


「してるでしょ!?村上君から『美羽をもうイジメるな』って言われたんだよ!」


「わ、私は……」


「男子味方につけてんじゃねーよ!!しかも、何で村上君に言ってんのよ、ムカつくんだけど!!」


真理ちゃんは、陸斗のことを好きなんだと他の女子が言ってるのを聞いたことがある。


「ご、ごめん……」


雨にかき消されるような小さな声で、私は答えた。


すると、少し間を置いた後、真理ちゃんが予想外のことを言う。


「そうだ、いいこと思い付いた」


彼女は嫌な微笑みを浮かべると、増水した川を指差した。


「泳ぎなよ、美羽」


「……えっ?」


一瞬聞き間違いかと思い、聞き直す。


「お、泳げって……こ、こんな……」


川は、いつもの穏やかさはなく、荒れ狂う激しい濁流になっていた。


「美羽、泳ぎ得意じゃん?先生にも誉められてただろ」


「む、無理だよ……!」


「泳げって言ってんだよ!!」


小さく拒否する私の肩をドンと真理ちゃんが押す。私はバランスを崩して、ドロドロになった川縁に腰をついた。私の手を離れた赤い傘が、くるっと半円を描いて投げ出される。


一層近づいた川から、狂ったような水音が耳に響いてきた。


「ほら、早く」


真理ちゃんは、そう言うと、地面に腰をついている私の肩を蹴ってくる。


「……っ」


蹴られた痛みと、一層近づく濁流に唇をかんだ。


「早くしろって……!!」


もう一度蹴ってこようとする真理ちゃんの靴先をかわすと、彼女の表情が怒りに歪む。


「アンタ……!!」


真理ちゃんは自分の傘を投げ出すと、私につかみかかってきた。


「……っ」


私は必死に彼女の両腕を振り払おうとする。


「な、んで……こんな……っ」


彼女と揉み合いながら、言葉が漏れた。


どうして、こんなに真理ちゃんは私を憎むの?


どうして……?どうして……?


こんな状態で言ったって仕方ない疑問が、心の中でこだまする。


「アンタの全部がムカつくんだよ!!」


私を睨む真理ちゃんのこの時の両目。


激しい雨と憎しみに濡れていた。


「やめ……っ!」


真理ちゃんの両腕が、私の体を全力で川に向かって押してくる。


(もう……っ)


落ちる……。


そう思った時。


「きゃ……っ!」


真理ちゃんの体がバランスを崩して、ぐらりと川の方へ傾く。


そして……。


バッシャーーーン!!


激しく流れる川の中へと落ちた。


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