第52話 雨1

小学校5年生。


7月のある日。


「学校終わったら、話あるから」


掃除をしてると、真理ちゃんが言ってきた。


「……」


私は掃いていた箒の手を止める。


やだな……。今日は陸斗も休みだし。


「先に帰ったら、許さないから」


無言で何も答えない私に、真理ちゃんは一方的にそういうと、私から離れていく。


私は、岡田 真理ちゃんを中心とする女子グループ数人からイジメを受けていた。イジメの内容は、みんなで無視したり、物が無くなったり、机に落書きが書かれたり……細かい嫌がらせの積み重ねだ。


一つ一つは小さなものでも、この頃の子供にとって、コミュニティーの外に弾かれることは、かなり厳しいことだった。


イジメに気づいた陸斗が、それとなく何度かかばってくれたけど、その陸斗は、熱が出て、今日はお休みだ。


今日は給食のない午前終わり。


午後から大雨になるって、朝のニュースで言ってたけど、教室の窓の向こうの空を見ると、すでに黒い雲で埋め尽くされていて、今にも雨が降りそうだ。


「みなさん。今日は、この後、激しい雷や大雨が降る予報だから、寄り道しないで真っ直ぐ家に帰ってください」


「はーい!」


先生のお話に、みんな元気よく答えていたけど、この後、寄り道確定の私は、黙ってうつ向いていた。


お帰りの挨拶が終わると、みんな足早に下駄箱に向かっていく。私も重い足取りで、下駄箱に向かうと、靴を履いた。


ちなみに、この靴は真理ちゃん達に三回ゴミ箱に捨てられている。


「あ……雨だ!」


校舎の外に出た他の生徒が、手のひらを空に向けながら言う。見ると、すでに雨が降り始めて、校庭を少しずつ濡らしていった。


靴を履き、傘を持って待っていると、少ししてから真理ちゃんが来る。


「行くよ」


「……う、うん」


傘を広げた真理ちゃんに続いて、私も傘を広げて校舎を出た。雨足はどんどん強まり、降りつける雨の筋で、辺りの風景が見えにくくなってくる。


「ね、ねぇ、真理ちゃん……。雨だんだん、ひどくなってきてるよ?先生も、今日は早く帰りなさいって言ってたし……違う日にしない?」


一歩前を行く真理ちゃんの背中に、恐る恐る呼び掛けると、彼女の足が止まった。


「アンタさ。私に逆らうわけ?」


ギロリと両目で睨まれて、畏縮する。


「そ、そういうわけじゃ……」


「じゃあ、黙って付いてきな」


「……」


それ以上何も言い返せなくなり、再び彼女の後を付いていく。


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