第51話 捩れた想い

「何で、そんな前のこと……」


陸斗には、ただの過去の話なんだろうけど。


私は今でも、あの時の陸斗の一言が、ずっと耳の奥に残ってるよ。


「本当は、智子じゃなくて、私だったら良かったのにって……思ってるんじゃないの、陸斗?」


「……?」


何のことを言ってるのか分からないといった顔の陸斗を真っ直ぐ見つめると、私は言った。


「智子じゃなくて……私が死んだら良かったのにって」


「……!!何言い出すんだよ、美羽!!」


智子は。


榊原女子中高生連続殺人事件の被害者の一人だ。


「お前、どうかしてるぞ、美羽!?代わりに死んだ方がいいなんて……冗談でも言うんじゃない!!止めろよ!!」


「冗談なんかじゃないよ。ほんとに、そう思ったから言っただけ」


「おかしいぞ、美羽……。こんなのいつものお前じゃない……!」


「いつもの私?いつもの私って……何?」


「……っ」


「知ったような口きかないでよ。陸斗に、私の何が分かるって言うの?」


「美羽……」


「分かんないのは、陸斗の方だよ」


あの時も。


そして、今も。


何を考えてるのか全然分かんないよ……。


「おい……落ち着けって……!お前、混乱してるんだ。気持ち分かるけど……時間がないんだよ!!」


訴えかけるように、陸斗が私の方に向かって腕を伸ばす。


「美羽、いいか。落ち着いて、ダウトするんだ!」


……陸斗。


そんなに私が嫌なの?


そんなに私に勝ちたいの?


きっと今でも、智子のことを想ってるんだね……。


もういない智子のことを。


私よりも……。


私の中で、繋ぎ止めていた何かが、音を立てて壊れていく。少しずつヒビが入って、割れていくガラスのように。


「……分かったよ」


小さく低い声が、私の唇を振るわせた。


そんなに望むなら、してあげる。


「陸斗。覚えてる?小学校五年生の時の、岡田真理ちゃん」


「……岡田?」


一瞬記憶をたどるような顔をした後、陸斗が言った。


「……ああ」


「真理ちゃんは、大雨の日、足を滑らせて川に落ちて亡くなったって言われてたよね?」


「ああ……久しぶりに思い出した。事故だったんだろ?増水した川を覗きに行って、足を滑らせたんだろうとか言われてたよな……。全校集会で校長がみんなの前で伝えて、結構衝撃的だったな」


「あれが、もし……事故じゃなかったとしたら?」


「……え?事故じゃなかったって……じゃあ一体……?」


「それを今から、教えてあげる」


「美羽……?」


驚いた表情を浮かべる陸斗を見つめると、私は静かに言った。


「ダウト」


 

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