第49話 手なし娘

「ダウト・スタート」


過る不安など無関係に、悪夢のようなゲームが始まった。私達の映るモニターの右上に、タイマー表示が表れる。「15:00」から、刻一刻と時間が削り取られていく。


(どうしよう……!?)


田部君と対戦した時以上の緊張と混乱が、身体中を駆け巡った。


そんな私の耳に、信じられない声が響いてくる。


「……美羽。先にダウトしろ」


「!?」


驚く私に、さらに畳み掛けるように陸斗が言った。


「早くしろ、美羽。時間がない」


「……っ」


さっきのゲームで、黒崎さんと九条さんが会話していた内容を思い出す。後でダウトした方が有利だと……。


「早くしろ!!」


今まで見たことないような怖い顔つきの陸斗が、急き立ててくる。


(何で……!?)


陸斗の真意が分からなくて、激しく鼓動が胸を打ち付けた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




昔、あるところに、とても貧しい粉屋が住んでいました。あるとき、森へ木を取りに行くと、会ったことのない老人が近づいてきます。


「お前を金持ちにしてやろう。風車小屋の後ろに立っているものをくれると約束してくれたらね」と言いました。


粉屋は、風車小屋の後ろに立つりんごの木だと思い、「いいよ」と答えました。その老人はニヤニヤしながら、「3年経ったら、とりにくる」と言うと行ってしまいました。


粉屋がうちに帰ると、妻が出迎えて言います。


「ねえ、あなた、このお金はどこから家の中に入ったのかしら?あっという間にどの箱も引き出しも、お金でいっぱいなのよ」


すると粉屋が答えました。


「森で会った老人が、財産をくれると約束してくれたんだよ。おれは、お返しに、風車小屋の後ろに立っているものをあげると約束した。りんごの木をあげても全然構わないもんな」


それを聞いた妻は、怯えて言いました。


「あなた、それは悪魔だったにちがいありません。りんごの木ではなく、娘のことを言ってたんですよ。娘が風車小屋の後ろに立っていたんです」


粉屋の娘は美しく信心深い子でした。


それから三年後、悪魔が迎えにくる日になると、娘は体を綺麗に洗い、チョークで自分のまわりに円を描きました。


悪魔は朝早く現れたのですが、彼女に近寄れない悪魔は怒って粉屋に言いました。


「もう体を洗えないように水を全部娘から離せ!」


粉屋は恐れて言われたようにします。


次の朝、悪魔はまたやってきましたが、娘は両手で顔をおおって泣いていたので、手は清められ綺麗でした。またしても娘に近づくことができない悪魔は激怒し、粉屋に言います。


「娘の手を切り落とせ!そうしないと、お前自身を連れていくぞ!」


恐怖に駆られた粉屋は……。

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