第47話 お菓子の家

そして、数分後。電源の落ちていたモニター画面が、再び明るさを取り戻した。そこに映し出されていたのは、森の様なところに横たわる九条さんの姿。


ヘンゼルとグレーテルの童話を思い起こしてみる。確か兄妹が、山の奥で迷って帰れなくなって、さ迷ううちに、お菓子の家を見つける。そんな内容だったんじゃなかったっけ……。


「では、『ヘンゼルとグレーテル』のお話を確認しましょうか」


冷たい声が、フロアに響き渡る。


「森のすぐ近くに、木こり夫婦と二人の子供達が住んでいた。男の子はヘンゼル、女の子はグレーテルといった。その土地が大飢饉に見舞われたため、夫婦はヘンゼルとグレーテルを山奥に置き去りにした」


……え?ヘンゼルとグレーテルが置き去りにされたのって、飢饉のためなの?


それって……口減らし?


背中に冷たい物が走った。


「一度目は、ヘンゼルの落としてきた小石をたどり、家に戻るが。夫婦に再び山奥で置き去りにされた二人は、家に戻ることが出来なくなった。そして、森の中をさ迷ううちに、お菓子で出来た家を見つける。空腹だった二人は、夢中でお菓子の家を食べ始めた」


子供の頃、この童話を聞いた時は、お菓子の家を見てみたいって可愛い空想にふけってみたりした。


でも、ヘンゼルとグレーテルが飢饉による口減らしのために、山奥に捨てられていたというのが気持ち悪い。童話じゃなくて、確か日本史とかで、余りにも貧困に困った時、子供を奉公に出したり、売ったり、最悪殺してしまったこともあると……そんなことを聞いたような気もする。


「すると、家の中から老婆が出てきて、優しくヘンゼルとグレーテルを家の中に招き入れた。そして、ご馳走や暖かいベッドを二人にあてがった。ところが、この老婆は魔女で、子供を殺しては煮て食べていた」


陸斗は相変わらず、ローブの執行人の話を聞いているのかいないのか、無言で私を見つめている。その表情が、どこか不気味で、得たいの知れないざわめきに不安が過った。


「そして、次の日。魔女はヘンゼルを檻の中に閉じ込めてしまう。それからグレーテルにごちそうを作らせて、ヘンゼルを太らせてから食べてやろうと企んだ。そして、四週間後。魔女はヘンゼルを煮て食べるための釜をグレーテルに炊かせる。釜の熱の具合を見ろと魔女に言われたグレーテルは、答えた。どうやるのか分からないと」


執行人が、そこまで話した時。横たわっていた九条さんが、小さな声を漏らしながら、ゆっくりと起き上がった。


「……どこよ、ここは?」


九条さんが青ざめた表情で、辺りを見回す。


そして、恐る恐る歩き出すと、その先に可愛らしい家が一軒見えてきた。

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