第45話 2回戦幕開け

さっきのショックから、まだ立ち直れないのか、九条さんはややうつ向きがちに視線を落としていた。そんな彼女に黒崎さんが声を掛ける。


「九条。お前も可愛いげがあるんだな」


「……どういう意味よ?」


黒崎さんの不可解な言葉に、九条さんが少しだけ睨むような目付きをして顔を上げた。


黒崎さんは、薄い唇に笑いを浮かべながら言う。


「まさか逃げ出すとは思わなかったよ」


「こんなゲーム逃げたいと思うのが当然じゃない……!?アンタこそ、おかしいんじゃない!?」


「おかしいって、何が?」


「こんな狂気の中にいるのに、何で落ち着いてんのよ!?」


確かに、明らかに精神のバランスを崩している九条さんと比べて、黒崎さんは、いつもと同じように淡々とした表情をしている。


「騒いだからといって、状況が変わるわけじゃないからな」


「……っ」


事も無げに答える黒崎さんに、九条さんが苛立った表情を浮かべた。


この二人は、男女の違いはあるけど、よく似ていた。容姿端麗で、勉強も運動も出来て、周りと一線を引くような際立った存在感。あまり感情を出さず、年齢に不釣り合いなクールな空気をまとっていた。


二人が付き合ってるっていう噂も、校内で何度か流れてたな。


でも、1回戦のゲームで九条さんは予備校の講師と付き合ってるって言ってたし、あの噂は嘘だったんだろう。


そんなことを考えていると、黒崎さんがまた口を開いた。


「集められた人数が8人でトーナメントを行うということは、3回ゲームを勝ち抜かなければならない」


……最初のゲームで8人参加して、そこで勝った4人でゲームをする。


そして、最後に残った2人が最終ゲームを……。


(陸斗……)


陸斗は、黒崎さんと九条さんの映るモニターを無言で見上げていた。


「九条。レディーファーストだ。先にダウトを」


黒崎さんが、九条さんに向かって言うと、彼女はキツい視線を向けながら叫ぶ。


「何がレディーファーストよ!!後でダウトをした方が、先に出たダウトに勝つ確率が上がるじゃない!!」


「だから、お前は1回戦の時、演技をして、相手に先にダウトさせた。そうだろ?」


「……っ」


九条さんは、無言で黒崎さんを睨みつけた。


「3回。ゲーム毎に勝てるダウトが必要だ。このゲームを含めて、後2回」


黒崎さんは、フレームの細い眼鏡を指先で押し上げながら、切れ長の瞳で九条さんを見つめる。


「1回戦のお前のダウト。なかなか面白かったな。他には、どんなダウトを持ってる?」


眼鏡の向こうの瞳が、探るように鋭い。そんな黒崎さんに、九条さんが声を荒げた。


「言うわけないでしょ!?今説明したじゃない!!後でダウトした方が有利だって!!」


「そうか。なら仕方ない」


黒崎さんは、そう言うと、腕組みをして黙ってしまう。


それから二人とも黙ったまま、タイマーの表示だけが時を刻んでいった。


残り時間が「07:00」になった時、九条さんが焦ったように口を開く。


「いい加減にダウトしたら、どうなのよ?もう時間がないわよ!」


黒崎さんは落ち着いた声で答えた。


「言っただろう?レディーファーストだと」


「ふざけんじゃないわよ!女になんて興味ないくせに!最初のルール覚えてるでしょ!?ダウトしなかったら、それだけで罰確定なのよ!?」


「なら一緒に仲良く、同じ罰でも受けるか?」


「アンタって、ほんと嫌な男!!前から大嫌いだった……!!いっつも学年順位の邪魔ばっかりするし……!!」


九条さんは、ゲームと関係なく、日頃の怒りが爆発しているようだった。あるいは、本音ではあるんだろうけど、そうすることによって、ゲームへの恐怖から目を逸らそうとしてるのかもしれない。


その後も二人は黙ったままで、確実にリミットが迫っていく。とうとうタイマーが「02:00」になった。

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