第43話 檻の中

「きゃ……っ!」


短い悲鳴を上げた九条さんの先にいたのは……赤ずきんのダウトゲームで出てきた狼犬ウルフドッグ達。


「道草を食ってはいけませんよ、赤ずきん。狼に食べられてしまいますよ?」


広間に、ローブの執行人の声だけが響き渡る。


「ガルルル……ッ!!」


狼犬達は低い唸り声をあげながら、今にも飛びかかりそうな鋭い目付きで、彼女を睨み付けていた。


「く……っ!」


七匹の狼犬達の凄まじい気迫に、九条さんはたじろぎ、一歩も進めなくなる。


「今そこで、狼のエサになるか。ゲームに戻り、勝って生き残るか。貴女に選ばせてあげましょう。10秒与えます」


そう言った後、紫のローブの執行人は、すぐにカウントを始めた。


「10、9、8、7、6……」


九条さんの表情に、一層焦りが滲む。


「5、4、3、2……」


あと1秒という、その時。


「ま、待って……!ゲームに戻る、戻るから……!!」


九条さんが、上を見上げながら叫んだ。


すると、ローブの執行人の声が響く。


「正しい選択です。ウルフ達、待て」


その声に、七匹の狼犬達は唸るのを止めた。


でも、その場は立ち去らず、目だけは九条さんを監視するように見つめている。


「さあ、赤ずきん。ゲームに戻るのです」


執行人のその声に、九条さんは諦めたように頭を下げながら、フェアリーテイルゾーンの入り口から遠ざかって行った。


しばらくして、黒崎さんが映っているのと同じモニターに、九条さんの姿が映る。


(逃げられないんだ。このゲームからは絶対に……)


ゲームを離脱しようとして完全に阻止された九条さんを見て、より一層深い絶望感が心を支配した。


「時間がありません。2回戦参加の皆さん。六芒星の描かれた円の中に入ってください」


そんな絶望感などお構いなしに、冷酷な声が響いてくる。


(ゲームを離脱すれば、狼に噛み殺される……)


もう戻れない……。この先どんなに凄惨な結果が待っていても。


うちひしがれている私の目の前で、陸斗が円の中へと入っていった。こんな状況なのに、なぜか陸斗には焦りが見られない。そのことが逆に、私の中の焦りを掻き立てる。


(陸斗……。何で、そんなに落ち着いてるの?)


いつもふざけてばかりいる陸斗が真顔で、こちらを見つめているのが不気味だ。


(どうして……?)


まさか……何かダウトを決めている?


だから、落ち着いて……?


そんな……そんなはずない。


だって、宮野さんの時だって、あんなにダウトするのを躊躇っていたじゃない?私は宮野さんなんかより、ずっと陸斗と仲がいいもの。そんな私を……簡単に……。


「笹原 美羽さん。皆さん、お待ちですよ?速やかに円の中へお入りください」


「……っ」


一人で、思考の迷路をさ迷う私をローブの執行人が冷たく促す。私は仕方なく、重い足取りで、1回戦と同じ六芒星の円の中へと入った。同じく向かい側に立つ陸斗の視線が、痛いほど突き刺さる。


「皆さん、揃いましたね。では、早速ダウトゲーム2回戦を始めましょう。では、始めに2回戦Aチームの黒崎秀一・九条綾音ペアのゲームを開始します」


悪夢の2回戦が、今始まる。


「ダウト・スタート」


九条さん達の映るモニター画面の上部に表示されたタイマーが、『15:00』から、1秒また1秒と削られていく……。

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