第42話 逃げた兎

私の数歩前を進んでいた陸斗の足が、アトラクションの入り口で止まる。


(陸斗……)


躊躇っているのか、陸斗の足が進まない。


私だって。今すぐに、このゲームから逃げ出したい。それで、今までと変わらない普通の生活に戻りたい……。


しばらく、陸斗の背中を見つめた。


「陸……」


止まったままの彼の背中に追い付こうと、一歩踏み出した時。陸斗の足が、また進み始める。何か覚悟を決めたような歩みに、どことなく不安が過った。


ラプンツェルの時と同じく、暗い通路を進んでいくと、木製のような扉が見えてくる。陸斗の手が伸び、扉を開けると、明るい電気の光に、一瞬目が眩みそうになった。


扉を抜けたそこは、前回と同じく、広い空間になっていて、壁にはさっきと同じ大きなモニター画面が上に一つ、その下に四つ横並びに並んでいる。


そして、次の瞬間、三つのモニター画面に電源が入った。


一番上の大きなモニターには、紫のローブの執行人。そして、その下にある一番左端のモニターには、黒崎秀一。その隣のモニターには、私と陸斗が映っていた。


(あれ?九条さんがいない……?)


黒崎さんと対戦ペアを組まされた九条さんが、彼と同じモニターに映っていない。


「困りましたね」


一番上のモニターから、冷たい声が響いてきた。


「どうやら兎が一匹逃げたようです」


(兎って……九条さんのこと?逃げたの、彼女……!?)


1回戦目のアトラクションから、2回戦目のアトラクションへ移動する時に、逃げ出したんだ、きっと。


私だって、逃げたいとは思ったけど、この狂ったゲームの主催者からは絶対逃げられないって思ってたから、また新たなアトラクションへ来た。


(逃げれる、の……?)


九条さんの行動に、心がざわついていると、感情のない声がモニター越しに響いてくる。


「兎が、どこに逃げたのか見てみましょうか?」


すると、ローブの執行人が映っていたモニターが、突然切り替わり、全く違う映像が映った。


それは、アトラクションの中じゃなく、外の映像。園内に、いくつもの監視カメラが設置されてるようだったから、そこからの映像が映っているのだと思う。園内のいろいろな場所に映像が切り替わっていたけど、そのうちの一つが映った時、私は小さな声を上げた。


「あっ……」


そこには、九条さんが息を切らせながら走っている映像が映っている。彼女の向かっている先は、私達がいるフェアリーテイル・ゾーンの入り口。


「冗談じゃない……!!こんな狂ったゲーム、やってられないわよ……!!」


そう叫んで、九条さんが入り口を出ようとした、その時。


入り口の向こうに、いくつもの影が見えてきた。

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