第39話 囚われの塔

「あるところに、長年子供に恵まれない夫婦がいたが、やっと子供を授かり喜んでいた。夫婦の家の裏には、妖精の庭があった。ある日、妻は、その庭の畑にあるラプンツェルがとても食べたくなる。そこで夫は、その畑からラプンツェルを盗んだ。そして二度目に盗みに行ったところ、妖精に見つかってしまう」


相変わらず、さっきまで私達の映っていたモニターは電源が落とされていて、真っ暗なままだ。


「妖精の醜い姿を見て怖くなった夫に、妖精は言った。『好きなだけ食べさせてやる代わりに、子供が産まれたら、私に寄こすんだ』と。すっかり怯えていた夫は、その要求を承諾してしまう。やがて妻が女の子を産むと、妖精がやって来て「ラプンツェル」と名付け連れ去っていった」


執行人の声だけが、一人きりになったフロアに冷たく響き続ける。


「ラプンツェルが12歳になると、妖精は高い塔のてっぺんに閉じ込めた。そして、合言葉を言うと、ラプンツェルが塔の上から金色の長い髪を垂らし、それを伝って妖精は塔を上っていた。そんなある日、王子が塔の側を通りかかり、ラプンツェルに一目惚れしてしまう。どうしてもラプンツェルに会いたい王子は、ある時、妖精が塔へ上るのを見た。次の日の夜、王子は塔の下へ行くと、昨日聞いた合言葉を言う。すると、長い金の髪が下りてきたので、それで塔の上へと上った」


そこで、消えていたモニター画面が再び明るくなった。


映しだされたのは、このフロアとはまた別の場所で、白い壁のような物が見える。


「驚くラプンツェルに王子は言った。『僕の妻になってくれないか?』と。ラプンツェルが頷くと、それから、ラプンツェルと王子は夜毎、塔の中で愛し合うようになった」


モニター映像のアングルは、白い壁をどんどん上へと上がっていき。


人の脚が見えてきた。


「しかし、ある時、ラプンツェルが妊娠したことに妖精が気づく。激怒した妖精は、ラプンツェルの長い髪を切り落とすと、荒野に捨て去った。そのことを知らずに、いつものように訪れた王子を待っていたのは、ラプンツェルではなく、醜い妖精。ラプンツェルがすでにいないと聞いた王子は、絶望のあまり……」


脚から上半身、そして……今映っているのは、目を閉じた田部君の顔だった。田部君は、両手首から伸びた黒いベルトのような物で吊るされて宙を浮いている。白い壁のようなものは、細長い塔の外壁だった。


「うっ……」


小さな呻き声を漏らすと、田部君の瞼がゆっくりと開く。


「……!?」


そして、自分が手首から吊るされていることに気づき、驚きに目を見開いた。

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