第37話 回想6
それから、何度か外で三人で会って。いつしか彼は、家にも来るようになった。お母さんも彼も、着々と「家族」になる準備をしているようだった。私の心だけが取り残され、そんな二人を冷めた目で見つめていた。
今日は、日曜日。
彼は当たり前のように家に来て、今ソファーに座り、私の隣で洋画のDVD を見ている私の知らない古い映画だった。
お母さんは、夕飯の買い出しに行っていて、家にはいない。お母さんの中で、彼は娘と二人で過ごさせても構わないほど信頼をしてるのが分かる。
……私はずっと考えていた。
どうやったら、この二人を別れさせられるかを。
テーブルに置いてある彼のスマホが鳴る。彼は手に取り、操作した後、こう言った。
「夏子は、あと20分くらいで帰ってくるって」
「……そう」
私は、リビングの壁掛けの時計を見上げる。私にしていた連絡も、お母さんは、いつしか彼にするようになっていた。
あと20分。
それは、二人が「別れる」までの時間。
『浮気された時かな……。もうオレには気持ちないのかなと思うから』
陸斗の言葉に、私は、彼をずっと観察していた。家に来て、ふとスマホから彼が離れた時、通話やメール履歴とかも見た。
だけど、お母さん以外の女の人と怪しいやり取りをしてるものは、一つも出てこなかった。
だから、私は考えた。いないなら作ればいい、って。
つまらない古い映画が再生されるのを眺めながら、私は「その時」が来るのを待った15分を過ぎた頃、家の玄関の鍵が開く音がする。
そして、リビングのドアの向こうに影が見えた。
(今だ)
私は、隣に座る彼のワイシャツの襟元を掴むと、勢いよくこちらに引っ張る……。
「……えっ?」
一瞬の出来事で、何が起こっているのか分からない彼が、驚いた表情で私を見た。
リビングのドアが開き、買い物袋を持ったお母さんが現れる。
「ただい……」
ドサ……ッ!
彼の体と私の体が、ソファの上で折り重なった。
「……っ」
言いかけたお母さんの言葉は途切れ、ソファの上で重なる私と彼を見つめた後、持っていた買い物袋がフローリングに落ちる。
落ちた袋から、オレンジがコロコロと転がっていった。
「……」
お母さんは、ただ私達を見下ろしている。
凍りついたように、微動だにしない。
驚きと、屈辱と、悲しみと、絶望と。
あんなにいろんな感情が混じりあった人間の表情を見たのは、あの時が初めてだった。
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