第31話 禁じ手

「では、1回戦Dチーム笹原 美羽vs田部 進也ペアのゲームを行いましょうか」


何の感情も含まない冷酷な声が響く。


「ダウト・スタート」


私達の映っている一番左端の画面に、タイマーが表示された。それはまるで刑執行のカウントダウンのよう。


どうしよう……!?どうしよう……!?私の番になっちゃったよ!!秘密とか嘘なんて、何も思い付かないよ!!


開始早々パニック状態に陥った私の耳に、田部君の声が響いてくる。


「村上先輩……笹原先輩……すんません」


不意に聞こえてきた言葉に、私は向かい側を見た。そこには、顔を歪ませた田部君が私を見ている。


「すみませんって、一体……?」


「このゲーム、俺が勝ちます」


「……え?」


戸惑う私に、彼は言い放った。


「ダウト」


驚きに両目を見開く私に構わず、田部君はさらに衝撃的な言葉を口にする。


「俺、人を殺した」


…………えっ!?


あまりにも予想外のダウトに、頭の中が真っ白になった。


……どういうこと!?どういうこと!?何なの!?人を殺したって……そんな嘘でしょ!?


告白の内容そのものに、しばらくショックを受けて立ち尽くした後、今度はそれとは違う恐怖が、私の心を壊していく。それは……このゲームに絶対勝てないという、どうしようもない絶望感。


頭の中を駆け巡るのは……足を切断された瑞貴。


狼犬に襲われた矢部君。


真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされた宮野さん。


それぞれの断末魔のような叫び声が、頭の中でけたたましいサイレンのように鳴り響く……。


ラプンツェル……ラプンツェル……


この童話には、一体どんな残酷な罰が……?


体の震えが止まらない私の耳に、不意に声が響いてきた。


「それは、面白いダウトですね。もう少し詳しく教えて頂きたい」


それは、上のモニターに映る冷徹なローブの執行人の声。今までゲームの途中で口を挟むことなんかなかったのに……。


「えっ……詳しくって……」


なぜか言葉を詰まらせる田部君に、執行人はなおも聞き続ける。


「いつ、どこで、どんな風に誰を何のために殺したのか。もっと聞かせてください」


「あ……あの……えっと……」


田部君は明らかに動揺していた。その先を言えないでいる彼を見ていると、執行人の冷ややかな声が再び響いてくる。


「なるほど。分かりました」


そう言った次の瞬間……。



「ああああああああああ……っ!?」



田部君の体が突然大きく波打つと、その場に崩れ落ちた。何が起きたのか分からず、呆然と立ち尽くす私の耳に、再び冷徹な声が響いてくる。


「貴方は、このゲームのルールを理解していないようですね?いいですか?このゲームは、今まで隠してきた秘密を告白するゲームです。作りあげた嘘を言うゲームではありません」


「あぁ…!うぅ……っ」


まだ苦しいのか、ヘキサグラムの円の中で、しゃがみ込んだまま、田部君は呻いていた。


(待って……。作り上げた嘘って……)


もしかして、さっきの田部君のダウトは、嘘ってこと?


恐怖心の隙間に、そんなことが頭を過る。


「今度ルールを無視すれば、ペナルティーとして、今の100倍の電流を流しますよ?」


「……っ」


宮野さんの時と同じく、電流を体に受けたから、田部君は倒れたんだ。


(あの人には……人間の感情が全くないの?)


氷のような恐怖が、心を凍てつかせる。


「まったく。つまらない茶番で、貴重な時間が無駄に過ぎましたよ」


執行人の声に、私達の映るモニター画面を見ると、タイマー表示が「11:15」になっている。


「さあ、時間がありません。あなた方の中に隠したダウトを告白するのです」


まるで何事もなかったかのように、淡々と響き渡る声。相変わらず田部君は、電流を流された後遺症なのか、メンタル的に立ち直れないのか、床の上にしゃがんだままだ。そんな彼を見つめながら、ふと思う。


(嘘ついて、私に勝とうとしたんだ……)


私の心に冷たいものが広がっていく。


(自分が勝てば、私がひどい拷問を受けるの分かってて、躊躇いもなく嘘ついたんだよね……)


うずくまる田部君を見つめている私の中に、黒い靄のような記憶が少しずつ蘇っていく。


そして、私は次の瞬間、口にしていた。


「ダウト」


 

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