第29話 鉄の靴

「ちょうどいいタイミングです。白雪姫の結末を聞いた後、貴女にはフェアリーテイルの一部になってもらいましょう」


「いぃ……!?うぅ……っ!!」


恐怖で声にならない声が、宮野さんの口から溢れる。


「王妃はとっさに逃げようとするが捕らえられてしまう。命乞いをしたが白雪姫は許さず、鉄の靴が火で炙られた」


そこまで言うと、ローブの人物は宮野さんから離れた。ローブの人物が移動した先には、煉瓦で出来た暖炉のような物が見える。


そして長い鉄製のトングみたいなものを暖炉の中に差し入れ、何かを挟み掲げた。


「……!!」


トングの先にあったのは……湯気の立ち上る赤く焼けた鉄の靴……。


「当時、薬草を作ったり、堕胎を手伝ったりした女は、魔女の疑いをかけられ魔女裁判が行われました。『鉄の靴』は中世ヨーロッパで実際に使われた魔女専用の拷問道具。十六世紀にスコットランドのジェームズ6世が、この鉄の靴で魔女裁判を行ったのは有名です」


そこまで話すと、紫のローブの人物は宮野さんの足の側に見える台の上に、焼けた鉄の靴を置いた。


そして、玉座に縛り付けられ身動きのとれない宮野さんの足を素早く掴むと、その白い足首を黒いベルトで固定する。


「ひぃぃぃぃ……っ!!」


顔面蒼白になった宮野さんが、か細い悲鳴をあげた。


「宮野由奈さん。貴女は本当に何も嘘や秘密がないのですか?」


彼女の震える肩に手を乗せ、その顔を覗きこみながら、ローブの人物が問いかけるように言う。


「もしも今、隠している嘘や秘密を打ち明けるなら……この靴を履かなくて済むかもしれませんよ?」


「いぃぃぃぃ……っ!!」


もはや宮野さんは、まともに話せる精神状態じゃなさそうだった。


「……そうですか。まだ打ち明ける気にはなれませんか。では仕方ありません」


そう言うと、ローブの人物が再び長いトングを手にすると、台の上に置かれていた鉄の靴を挟みあげる。


「では履いてもらいましょうか、鉄の靴を」


その声と同時に、トングで挟まれた赤い鉄の靴が、一気に宮野さんの右足に履かされた。



「ぎゃああああああああああああああ……!!」



凄まじい叫び声に、思わず目を背け両耳を塞ぐ。


唇も手も足も、ガタガタと震えていた。


しばらくして、ふと静かになり、恐る恐る視線をモニターに戻す。


「……っ!!」


そして、やっぱり見るんじゃなかったと後悔した。


横長の画面にアップで映っていたのは……鉄の靴を履かされ湯気の立ち上る彼女の無惨な足。


「うっ……!」


急に酸っぱいものが込み上げてきて、思わず口元を手で覆った。


そんな凄惨なシーンにも、何の感情も湧かないのだろう冷たい声が響いてくる。


「白雪姫を殺そうとした実母も、この鉄の靴を履かされ、死ぬまで躍り続けたそうですよ」


そして謎の執行人はモニターの向こうから、こちらを見つめて言う。


「これからゲームを行う君達。分かりましたか?このゲームに勝って助かりたければ、君達の中に隠している、より大きな嘘を告白するのです」


……何で?


……何で、私達なの?


……何で、そんなに他人の秘密を知りたいのよ?


何でこんな残酷なゲームを!?


「さあ、一回戦のゲームも残すところ、あと1ゲームだけ。さっそくゲームを始めましょうか」


いよいよ自分の番になった……。残酷なゲームの連続で、そっちに意識がいってしまい、自分のゲームの時にどんなダウトをするかなんて全く考えている余裕なかった。


ううん……そもそも、そんな嘘や秘密なんて、私の中にあるんだろうか?


混乱する私をよそに、無感情の声が響き渡る。


「では、1回戦D チーム笹原美羽・田部進也ペアのゲームを行いましょうか」


 

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