第23話 狼犬

「では、ここで『赤ずきん』のストーリーを簡単に説明しましょうか。あるところに赤ずきんと呼ばれる可愛い女の子がいた。彼女は母親の言いつけで、おばあさんの家にお見舞いに行くことになった。その途中で狼と会ってしまう」


それで狼はおばあさんを食べた後、赤ずきんも食べてしまうけど、通りかかった猟師に狼が撃たれて、お腹の中から、おばあさんと赤ずきんは助けられて終わりだったよね?


「狼は先回りして、赤ずきんのおばあさんの家に行き、おばあさんを食べてしまう。そして後からやって来た赤ずきんも狼が食べた。おばあさんも、赤ずきんも、二度と戻ることはなかった」


……え?……それで終わり?


「なあ、おかしいだろ、それ!?二人は、確か猟師が狼を撃ち殺して助けられるんじゃ?」


私と同じことを思った陸斗が、噛みつくように言った。


すると、ローブの人物は答える。


「それは、グリムが書き換えたストーリーです。書き換えられる前は、二人は食べられて終わりなのですよ」


食べられて終わり……。


何か背筋に冷たいものが走った。


「若い女の子に『狼のような悪い男』に引っ掛かってはいけないと警告しているのが、そもそもの赤ずきんの話なんです。だから、助かってしまっては意味がないでしょう?ですから……」


ローブの人物の唇が不気味に歪む。


「今から本当の『赤ずきん』を忠実に再現するのです」


「……な、何すかね……アレ?」


向かい側にいる田部君の声に見ると、矢部君の映っていたモニターに見馴れないモノが映っていた。


それは巨大な檻の柵。


柵の向こうは薄暗くてはっきり見えないけど、何かが複数いて蠢いている。


「さあ、私のウルフ達。フィナーレを飾っておくれ」


その声と共に、柵が音を立てて上へと上がっていった。


「なっ……!?」


現れたのは7頭の狼のような獣達。


「あ……あぁ……っ!」


獣達の向こう側で、顔面蒼白になり両足を震わせている矢部君の姿が映った。


「これは狼犬ウルフドッグと言って、狼と犬の雑種。特にこの子達は狼の特性を強く引き継いでいる種でしてね。見た目はもちろん、反射神経や持続力、運動神経、視覚・嗅覚……狼そのものと言っていい。家族と認めたもの以外には、強い警戒心を持っているんですよ」


確かに、その狼犬ウルフドッグ達は矢部君のことを威嚇するように低い唸り声をあげている。


「主従関係がきちんと出来ていないと大変な目に合うんです。私自身、この子達を調教するまで、ずいぶんと手を焼きました。これは、その時の良い思い出です」


そう言って、ローブの人物は、紫のローブをめくると腕を見せた。


「……!」


その腕には、複数の噛み痕のようなひどい傷が刻まれている。


「やめ……助けて……」


矢部君の口から、か細い声が漏れた。


でも、ローブの人物の容赦ない声が響く。


「矢部 真。君は、この子達を上手く調教出来るかな?」


薄く笑うと、ローブの人物は手を一振りして言った。


「ウルフよ。侵入者を排除しろ」


その声を皮切りに、狼犬ウルフドッグ達が一斉に矢部君に飛びかかる。

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