第22話 逆転

矢部君が驚いた表情で、九条さんを見た。そんな彼の視線など気にも止めず、九条さんは言う。


「予備校の30代の講師と付き合ってる。肉体関係もあるわ」


(……えっ!?)


突然の告白に驚く。


30代って……二まわりも年齢違うってこと!?し、しかも関係まで持ってるって……。かなり衝撃的な告白だ……。


「そ、そんな……っ」


矢部君が動揺した眼差しで、向かい側に立つ九条さんを見ている。


と、彼らの映っているモニターのタイマーが「00:10」で止まった。


すると、相変わらず感情の分からない冷静な声が、上のモニターから響いてくる。


「ダウト終了。では、勝敗を決めます」


紫のローブの人物が言った後、その画面一杯に、次の表示が現れた。



『Winner 九条綾音


 Loser  矢部真 』



矢部君の顔が一気に青ざめた。


「く、九条先輩……さっき何も思い付かないって言ってたじゃないですか……!!」


その声には焦りが滲んでいる。対する九条さんは、冷静な目付きで矢部君を見つめ返した。


「あれ、嘘だから」


「……はぁ!?」


「あんたがどんなダウトを出すか聞いてから、自分のダウトを決めようと思ったの」


思いもよらない言葉に、矢部君の表情に怒りが滲む。


「汚ねーぞ!!」


「私、ルールは守ったわよ?」


「ルールって……!?フザケんなよ、この女……!!」


二人の言い合いに、冷たい声が割り込む。


「では、敗者には罰を受けてもらいましょうか」


「ちょ……待て……待ってく……っ!!」


その直後、矢部君の足元の床が開き、彼は奈落の底のような暗闇に落ちていった。


「あんたに恨みなんてないけど、あんな罰を受けるなんて、ごめんだわ!」


残った九条さんは言うと、髪をかきあげる。瑞貴達の時と同じで、モニターがまた真っ暗になった。何が起こっているのか分からない、この時間も恐怖が増していく。


「今度は一体、何が起こるんすかね……」


「……」


田部君の微かに震える声に、私は何も答えられなかった。


「……さっきの早川先輩の時、割り振られた童話の中に出てくるシーンを再現したって言ってましたよね?」


そうみたいだけど、さっき聞かされたシンデレラのストーリーは昔読んだ話とは全然違うから、見当もつかない……。


見当がついたところで、その悪夢みたいな拷問から逃れられないなら意味がないよ……。


そんな絶望的な気持ちでいると、再びモニターが明るさを取り戻す。そこに映し出されたのは、壁一面に森の絵が描かれた空間で、辺りを見回しながら不安げな表情で歩き回る矢部君の姿。


「な、何なんだよ……」


次に自分の身に何が起こるのかへの恐怖で、その表情は暗い。


そして、一番上のモニターに映るローブの人物の声が響いてきた。

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