第21話 探り合い

「ダウト・スタート」


無機質な声と共に、理不尽なゲームが再び始まった。九条さんと矢部君の映る、左から二番目のモニターの右上に、さっきのゲーム同様タイマーの表示が現れる。『15:00』から0に向かって、少しずつ残り時間が削られていく。


「……」


「……」


二人共黙ったまま、ただ時間だけが流れていく。5分が経過した時、矢部君が口を開いた。


「九条先輩」


「……何?」


「怖くないんですか?」


矢部君の質問に、九条さんが苦笑する。


「怖くないわけないでしょ……。あんなモノ見せられて」


「そうですか……。何かやけに落ち着いてるように見えたんで」


「それを言うなら、あんたも、ずいぶんと落ち着いてるじゃない?」


今度は、矢部君が苦笑した。


「それは勘違いですよ。俺、めちゃくちゃビビってます。さっきから膝が笑ってるし……」


よく見ると、確かに矢部君の脚は小刻みに震えている。


「九条先輩は、どんなダウトを言うんですか?」


「……!」


矢部君がストレートに聞いた。


「あら、それは探りを入れてるのかしら?」


「そ、そういうわけじゃ……」


さっきの瑞貴の惨状を見たから、迂闊にダウトを言えないんだろう。もし負ければ、恐ろしい罰が下されるのだから。たぶん、対戦中のこの二人も、この二人をモニター越しに見つめているみんなも、恐怖と戦っている。


また二人共無言になり、8分が経過した。


「そろそろ何か言わないと……タイムアップですよ」


矢部君が言った。


「そうね……。でも、私何も思いつかないわ。ずっと考えてるんだけど」


「そうですか……」


そこでまた二人は黙りこみ、もう残り2分を切ってしまう。


「九条先輩……そろそろマジでヤバイですよ……?」


矢部君の言葉に、九条さんはため息をつくと、首を横に振った。


「……ダメ。全然思いつかないわ。これといって嘘も秘密も思い当たらない」


そう言うと、九条さんは向かい側に立つ矢部君を見つめて言う。


「私、もう諦めるわ。矢部君だけでも、ダウトして……?」


「……っ」


矢部君が戸惑うような表情を浮かべた。


最初に言われたルールからいけば、どちらか片方だけがダウトをした場合、必然的にその人物が勝つことになっている。


でも、それは同時に相手が残虐な罰を受けることを意味している……。矢部君達の映るモニターのタイマー表示が、とうとう残り1分になってしまった。


すると、矢部君が口を開く。


「すみません、九条先輩!」


そう謝った後、彼は続けた。


「ダウト!俺、彼女いないって言ってるけど、ほんとはバスケ部マネージャーの吉野明美と付き合ってる!」


……え?明美ちゃんと付き合ってたの!?そんなこと彼女、一言も言ってなかったけど。

何だろ……他の部員に気を使って、秘密にしてたのかな?


一気に言い終わった矢部君は、張りつめた緊張感が解けるように一息吐くと、申し訳なさそうに九条さんを見つめた。


「すみません、九条先輩……」


この後、彼女に振りかかる凄惨な罰を思い浮かべているんだろう。


もう残り30秒……。私はどうすることも出来なくて、矢部君と九条さんの映るモニターから視線を外した。


その時だった。


「ダウト」


凛とした声が響いてきて、思わずまたモニターを見上げる。

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