第9話 案内人
「笹原先輩」
「何?」
通路を歩きながら、田部君が聞いてきた。
「ラプンツェルって、どういう話なんすか?他のシンデレラとか赤ずきんとかは分かるんですけど」
「ラプンツェルは……確か長い金髪の少女が、魔女によって塔に閉じ込められてて、そこで王子に出会うとか、そんな話だったんじゃないかな?」
「なるほど、金髪少女が監禁される話っすね」
そういうまとめ方?まあ、間違ってはいないけど。
「あ、扉だ」
薄闇の中、天井から仄かに射す明かりが、木のような両開きの扉を浮かび上がらせていた。
「開けますよ」
「うん」
私が答えると、田部君が両手で、その焦げ茶色の扉を開ける。
「……っ」
開いていく扉の隙間から、目映い光が漏れてきて、暗闇から突然明るくなって目が眩んだ。扉の中へと進み、思わずかざしていた手を下ろして見ると、そこは広間のようになっていて、辺り一面緑の葉をかたちどった飾りに囲まれている。
「何だ、この葉っぱは?」
床に点在する作り物の緑色の植物を見て、田部君が言った。
「これ、たぶんラプンツェルだよ」
「えっ、これが?ラプンツェルって植物なんすか?」
「うん、そうだよ。サラダとかにして食べるんだって」
私は丸い緑の葉を見ながら答える。
「この葉っぱはいいとして……あれ、何すかね?」
田部君が指差した先を見ると、正面の壁のやや上方に、横長の5つのモニターがあった。今は電源が入っていないのか画面は真っ暗で、1つのモニターの下に、4つのモニターが横並びに並んでいる。
「何か映像でも流れるんすかね?」
田部君がそう言った瞬間、その4つのモニターに突然電源が入った。
「あ……!」
明るくなった下4つのモニターには、一番左端のモニターに、瑞貴と黒崎さん。
その隣のモニターには、九条さんと矢部君。
次のモニターに、陸斗と宮野さん。
そして、一番右端のモニターには、私と田部君の映像が映っている。
それぞれのモニターには、私達同様驚いた表情のみんながいた。
「何だよ、これ……!」
モニターの向こうで陸斗が言う。
その時、私達を映した4つのモニターの上にある1つのモニターにも電源が入った。
「……?」
その画面に不思議な映像が映っている。
濃い紫のローブのような物を纏い、その顔も体も全く見えない人物。わずかに見えるのは、その口元だけだった。
「アンタ、誰だよ?」
モニターの向こうで矢部君が聞く。
少しの間の後、紫のローブの人物は、私達に話しかけるようにしゃべり始めた。
「ようこそ、我がアナザーワールドへ。今宵、皆様を美しいフェアリーテイルの世界へと誘います」
その声は、女性にしては低く、男性にしては高い中性的な声だ。
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