第8話 幕開け
「じゃあ、行ってみるか」
陸斗がそう言った時、パーク内の放送が再び流れた。
「イベント参加者の皆様。ようこそ、フェアリーテイル・ゾーンへ。ここでは、皆様が子供の頃に読んだり聞いたりした童話の世界を実体験できるアトラクションを取り揃えております」
突然流れてきた声に、みんな一瞬驚き、陸斗が疑問を呟いた。
「え……何で俺らが、このゾーンに入ったこと分かったんだ?」
その言葉に、黒崎君が、冷静な声で返す。
「おそらく、アレだろう」
そう言って、彼は親指で、頭上を指した。その方向に視線を向けると、ちょうど私達を見下ろすように設置された監視カメラが見える。
(そっか。あのカメラに、私達が映ってるから分かったんだ)
今は、どんな施設でも、たいてい監視カメラが設置されている。
だけど、私は、言葉では上手く言えない違和感を感じた……。
さらに、そのパーク内の放送は、予想外の指示を私達にしてくる。
「皆様には、より楽しくフェアリーテイル・ゾーンを体験して頂くために、これから二人一組のペアに分かれて頂き、このゾーン内で、ゲームを行って頂きます」
えっ?ゲーム……?
「今から、皆様のスマホに、対戦ペアと、その場所をメールで送信いたします。そちらを確認して頂き、速やかに移動ください」
その放送が終わった瞬間、私達のスマホが一斉に鳴り響く。けたたましく響いた、いくつもの音に、思わずビクッと肩が震えた。
「何これ?」
スマホに入ってきたメールを確認すると、みんなの名前と、四つの童話の名前のアトラクション名が記載されている。
「へぇ、ゲームか。面白そうじゃん」
スマホの画面を見ながら、矢部君が笑った。
そのメールの内容は……。
◆1回戦Aグループ
黒崎秀一 vs早川瑞貴
アトラクション名『シンデレラ』
◆1回戦Bグループ
矢部真vs九条綾音
アトラクション名『赤ずきん』
◆1回戦Cグループ
村上陸斗vs宮野由奈
アトラクション名『白雪姫』
◆1回戦Dグループ
笹原美羽vs田部進也
アトラクション名『ラプンツェル』
何だろう……。テーマパークのプレオープンって、こんな感じなのかな?
何か引っ掛かる……。
「ねぇ、みんな……これ、やっぱりおかしくない?」
今までずっと黙ってた瑞貴が、初めて口を開く。
「そもそも、私は、このイベントに参加申込みなんてしてないし、こんなペア作って競わせるとか……何か変だよ!」
瑞貴は、私の中でモヤモヤしてた思いを言葉にしてくれた。
「確かに、私もずっと引っ掛かってるわ」
九条さんも同じように言い出す。
「だいたい、私達、榊原高校の生徒達だけっていうのも不自然よ」
すると、黒崎君が言った。
「まあ、俺達だけというのは、確かに疑問だが。今後の集客のために、趣向を凝らしたプレオープンを行って、話題作りをしているのかもしれないな」
黒崎君の言葉に、田部君が同調する。
「黒崎先輩の言う通りっすよ。みんな、考えすぎですって!とりあえず、このゲームをやってみて、どうしても嫌だったら帰ればいいじゃないすか?」
「だな。招待されただけで、強制ってわけじゃないし」
陸斗の言葉に、矢部君も頷いた。
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