第7話 噂

「フェアリーテイル・ゾーンは、このパークの一番奥だな」


陸斗が言うと、矢部君がボヤく。


「どうせ体験できるなら、俺は、アニメ・ゲーム・ゾーンが良かった」


確かに、このテーマパークの一番のオススメは、アニメ・ゲーム・ゾーンだと、だいぶ前にテレビで見た特集では言ってた気がする。


「でも、こうしてプレオープンのイベントが開催されたってことは『アノ噂』はウソだったってことっすよね」


矢部君の隣を歩く、一年の田部 進也が言った。


「えっ……あの噂って?」


私が聞くと、田部君は答える。


「いや、3チャンネルの噂で、アナザーワールドは問題が起こって、オープンを中止することになったらしいって」


「オープンを中止……?」


私は驚いて、思わず声をあげた。


「田部。3チャンの噂なんて、アテになんねーよ」


陸斗が田部君の話を否定する。


「そうっすね。現に俺らがこうして呼ばれてる訳だし。あ、あともう一個あるんすけど」


「3チャンの話は、もういいって」


陸斗がそう言ったけど、田部君は続けた。


「そのもう一個っていうのが……。このテーマパークを作った会社の社長の子供が、オレらと同じ高校生らしいんすけど。I Q がめちゃくちゃ高い天才で、このパークのアトラクションのプログラムを作ったって書かれてたんすよ」


「え、高校生で!?すごーい!!」


田部君の話に、宮野 由奈が声をあげた。


「で、その子供、アメリカに留学してたらしいんすけど、変わり者過ぎて、学校で上手く行かなくなって、結局日本に帰国して、今はどっかの日本の高校に通ってるって」


黙って話を聞いていた生徒会長の九条 綾音が、ため息をつく。


「そんなのウソに決まっているでしょう?バカバカしい」


九条さんがそう言った後、ここまで静かに歩いて来た黒崎 秀一が、上を見上げながら、みんなに言った。


「ここから先が、フェアリーテイル・ゾーンだろう」


私も彼同様、上を見上げると、赤や黄色の花を咲かせた蔦が絡まったデザインの大きな緑色のアーチが立っている。よく見ると、花や葉っぱの合間に、羽根の生えた小さな妖精達がいた。


「可愛いアーチ。きっと夢の世界みたいなアトラクションがあるんだわ」


宮野 由奈が、うっとりとした瞳でアーチの向こうを見つめる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る