第4話 集められたのは

「あれ?」

パーク正面入口の両サイドに花壇のある石段を上って行くと、重厚な漆黒の大きな門が見えてきたけど、その門は固く閉じられていた。


(これじゃ、中に入れないじゃない)

そう思っていると、黒い門の周りに、何人か人がいるのが見える。門の側まで行くと、意外な人物を見つけた。


「瑞貴……来たんだ!」

絶対に来ないだろうと予想していた瑞貴が、門の側に座っている。

「美羽」

彼女も私を見つけると、立ち上がった。


「来ないと思ってたよ、瑞貴」

「うん……。最初はやめておこうと思ったんだけど、たまには気晴らしもいいかなって」


そう言って、瑞貴は悲しげに笑う。元々はショートだった瑞貴の髪は伸びて、背中半ば程の長さまでになっていた。

その姿は、妹の瑞穂ちゃんに、よく似ている……。

でも、そんなこと言えないから、心の中に、そっと留めた。


「笹原さ~ん」

声をかけられたので、そちらに視線を向けると、一年の時、同じクラスだった宮野由奈みやの ゆなが、こちらに向かって手を振りながら歩いてくる。150センチ少しという低めの身長に、ふわりとエアリーな茶色がかった髪、光を弾くような、淡く丸い瞳。相変わらず少女漫画のヒロインみたいに可愛い容姿の彼女。


「もしかして、笹原さんも、アナザーワールドのプレオープンイベントの抽選に当たったの?」

「え……」

じゃあ、宮野さんも当たったってこと?

ということは、うちの高校のイベント当選者は、これで6人いることになる。


不意に、車の走行音がしたので、視線を向けると、石段の下の道路に、一台の黒塗りの高級車が横付けされた。運転席のドアが開き、初老の男性が降りると、今度は後部座席のドアを丁寧に開ける。


黒塗りの車の中から出てきたのは、三年で生徒会長の九条綾音くじょうあやねだった。


九条さんは、旧家のお嬢様。こうして、よく黒塗りの車が、高校の正門の近くで、彼女を降ろしてるのを見かける。彼女は、背中半ばまで伸びたサラサラの長髪を揺らしながら、石段を上ってきた。

そして、門の側にいる私達を見て言う。


「もしかして、あなた達も、アナザーワールドのイベントで来たの?」

九条さんの言葉に、隣にいる宮野由奈が、妙にハイテンションな口調で答えた。

「はい!私達もイベントで来たんです。九条先輩も参加されるなんて、由奈嬉しいです!」

確か、九条さんと宮野さんは同じ茶道部だった気がする。

にしても、何だろう、宮野さんの九条さんに向ける眼差しは。両頬を赤らめて、熱のこもった瞳で、彼女を見つめている。


「うちの高校の生徒ばかりね」

私達を見ながら、うんざりしたように九条さんが言った。

その時、再び石段の下の道路に、一台の白いワンボックスが停まる。

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