第3話 アナザ一ワ一ルドへ

それから、あっという間に一週間が過ぎて、招待メールにあった8月15日になった。

あの後、陸斗から何度か連絡があって、あの招待メールをもらった生徒が、他にもいることが分かった。


一人は、陸斗と同じバスケ部2年の矢部真やべ まこと

それから、生徒会長で3年の九条綾音くじょう あやね

分かってるだけで、榊原高校の生徒5人が抽選に当たっていることになる。


抽選に当たった人は、全員で何人くらいいるんだろう?

そんなことを思いながら、私は、親の車に乗った。アナザーワールドまで送ってもらうために。

アナザーワールドは、基本的には車で行く想定の場所に建設されている。私達の住んでいる場所は、約30年前に出来た、当時のニュータウン。昔から地元に住んでいる人達いわく、このニュータウンが出来る前は、田んぼと畑しかない田舎だった。

ニュータウンが出来た当初は、一気に住民が増えて、学校にも子供が溢れてたらしい。


でも、今は、当時子供だった人達が成人して町を離れ、その人達の親世代が、この町を埋め尽くしている。私達みたいな子供は激減し、子供のいる世帯は、年々少なくなってる。

そんな中、この町を活性化するためのプロジェクトとして、『アナザーワールド』の計画が持ち上がったらしい。


大人から子供まで楽しめるテーマパーク……それが、アナザーワールドのコンセプトだって、以前ニュースの特集で言ってた。一種の町おこしみたいなものだと誰かが言ってたけど、そんな大人の事情なんて、どうでもいい。私達は、近場に新たな遊び場が出来れば、それでいいんだ。


「ねぇ、美羽」

隣の運転席から、お母さんが声をかけてくる。

「何?」

「そのイベントって、本当にあるの?」

「え?」

「プレオープンのイベントのことなんて、テレビとかのメディアで何も告知してないじゃない?そんなイベントがあるなら、何かで言っていそうなものだけど」

行くのをやめなさいとか言われそうで、私は慌てて、お母さんに言った。


「あるんだよ、本当に!だって陸斗にも招待メール来たって言ってるし、他にも、うちの高校の生徒でもらった子いるんだよ」

「ふーん……」

お母さんは、まだ少し引っ掛かっているような声を漏らす。

「9時頃には迎えに行くから、ちゃんとパークの入り口のところに、いなさいよ」

「うん」

そう私が言った時、アナザーワールドの建物が見えてきた。そのまま車は、ワールド内の敷地へ入っていく。お母さんが駐車場に車を停めると、私は一人車を降りた。


「もし、何かあったら、ちゃんと連絡しなさいよ。じゃあね。楽しんできてね」

「うん、ありがと」

元来た道を走り去っていく車を見送って、私はパークの正面ゲートへと向かう。

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