ダンジョン(奥)
〈ダンジョン1階層深部〉
♦
和人と真守は1撃で《イネ》から出てくる子分を倒している。
《イネ》から出ているのだから《コメ》と名前を付けても問題はないだろう。
《コメ》は大きいのでサッカーボール程で小さいとハンドボール程の大きさとバラバラだ。
《イネ》は絶え間なく《コメ》を量産し続けている。
大きさはハンドボール程のモノが大半で生産スピードを上げると比例して大きさが小さくなるようだ。
「後続接近!」
真守は《イネ》いる前方ではなく反対側に敵影を確認し、和人に声をかけた。
「視認。《イネ》!」
続けて真守は近づいた敵の名前を言う。
「俺が行く!」
「了解!」
和人は真守の了承の声を聴いた瞬間に踵を返し、後ろの《イネ》に肉薄した。
新手の《イネ》からは大きな《コメ》がポロポロと身体の中からこぼれる。
「ッラァ!」
和人は持っていた刀を《イネ》に向けて投げた。
身動きを取らない《イネ》は頭部に刀が突き刺り、身体が《コメ》の排出が止まる。
「真守!」
そのまま突っ込む和人は敵に迫りながら真守の名を呼ぶ。
すると真守は敵を相手にしながら小さなモーションで何かを投げた。
和人は新手の《イネ》が最初に出した《コメ》が迫り、和人に体当たりをかます。
だが、和人はその攻撃を盾で防いだ。
先ほど、真守が和人に投げたのは彼が左手に構えていた防具の盾だった。
和人は盾を使って《コメ》を蹴散らしながら《イネ》に近づき、刺さった刀を握りって振りぬいた。
その一撃で《イネ》は黒煙と消え、辺りの《コメ》も消える。
「和人!」
敵を倒した余韻を浸る暇はなく、真守が声を上げた。
真守の周りにはたくさんの《コメ》が群がっていた。
たくさんの敵を前に身体から白い煙を出して戦う真守に和人は持っていた武器を投げ、彼のもとに戻る。
真守は和人から投げ渡されたモノを避け、敵に突き刺さる。
黒煙と消える前にその武器を手に取り、両手に剣を持って群がる《コメ》を切り倒す。
身体の中心線を起点に両手をバラバラに動かしながら倒す。
どうしても倒せない敵は蹴飛ばりもする。
「真守!」
すぐに駆け付ける和人。
彼の身体も白い煙を出している。
真守は和人に刀を投げ、和人は盾を投げた。
お互いの武器がそろい、お互い背中合わせになって群がった敵を屠る。
「この数はマズイ。終わりにしよう」
「そうしよう」
真守の提案に即座に同意し、2人は《コメ》大量生産している《イネ》を倒すために動いた。
「だあぁぁぁあ!」
真守は盾を構え、《イネ》に突っ込む。
《コメ》がボールが如く弾き飛ばされ、後ろに和人が付いている。
「和人!」
「おう!」
和人は真守の背を足代にして跳躍。
前方にいる《コメ》の頭上を越えて《イネ》に近づき、頭部から一刀両断。
周囲に黒煙が広がり、そこに立つのは白い煙を上げる和人と真守のみ。
♦
『前方クリア』
「後方クリア」
僕と和人は後続を確認し、安全を確認した。
そして。
その場に倒れた。
『マジで疲れた』
「僕も疲れた」
辺りは静かだ。
さっきまであんな戦いがあった事なんて嘘みたいだ。
『《イネ》の量産スピード半端ないな』
「そうだね。まさか、
闘牙とは僕たちが使っていた身体から立ち上る白い煙のことで、ダンジョンに入る者で《冒険者》と呼ばれるクラスの人は使うことが出来る技能だ。
効果はドーピングのように身体能力を上げるのモノで中々の癖がある技能である。
『これ、疲れるんだよな~』
「そうだな」
身体の許容以上の力を使うため、結構疲れるのが難点だ。
さて、こんな場所でいつまでも横になっていられない。
辺りに散らばったモノを回収しないとな。
「戦利品の粒を拾うか」
『あぁ』
ダンジョンのモンスターは倒すとほぼ何かをドロップする。
ほぼなので、ドロップしないモンスターもいる【イバダン】では《ハクサイ》がそれだ。
そして《イネ》は申し訳程度にドロップを落とす。
それが《石》だ。
ただの《石》ではなく、成分に金やら銀やら銅やらが含まれているのだ。
稀に宝石系が入っていたりする。
つまりお金になる。
「全部で200個ぐらいか?」
『配分は?』
「折半で良いだろう? 何ならパンツ分は多く渡そうか?」
『何、その優しさに似た悪意。お前、パンツを愚弄する気? 俺、本気で戦うよ?」
本気でうざい。
「帰るか」
『帰ったら議論な』
「はいはい」
ま、帰ったら2人とも忘れてると思うがな。
帰りに《イネ》が2体と《ハクサイ》が4体と出くわしたが、2人で瞬殺して0階層に戻った。
〈ダンジョン0階層〉
ガヤガヤと相変わらず人が多い。
「はぁ~」
和人はヘルメットを取って髪をかき上げている。
少し様になっているのが腹が立つ。
疲れてほとんど会話をすることもなく、ダンジョンを出てメンテナンス店に向かう。
「らっしゃい。戻ったか」
「はい」
猛さんがカンターでテレビを見ていた。
「どうした。両方とも疲れた顔して?」
猛さんとはかなり長い付き合いをしていることでいろいろと世話になってる。
俺たちが付かれた顔をしていることなんて普通に見抜かれる。
「《イネ》の子分を2人で倒してました」
「あぁ? 《コメ》の方を?」
「はい」
和人は疲れて無口だ。
少し中を見ていることからおそらく眠いのだろう。
てか、《イネ》の子分に名前があったのか。
しかも《コメ》って分かりやすいし、的を射たネーミングだ。
「何でまたそんな事をしてんだ?」
「経験値的に美味しいかな~っと」
「ん~?」
猛さんは電卓で何かを計算している。
「確かに効率は良いな。お前らが潜った時間なんて3時間もないだろう?」
「そうですね」
約2時間ぐらい?
戦闘時間は全部で45分くらいか。
大半が《イネ》との戦闘だったけど。
「何体倒したんだ?」
「《コメ》をおよそ200ぐらいですね」
「ほぉ。そりゃまた頑張ったな。アレを使ったのか?」
「えぇ。大量に出現してしまったんで、仕方なく」
猛さんが言った『アレ』とは闘牙のことだ。
「2階の《ネッコ》なら10~15体分ってところだな。3階の《ニンギョウ》なら効率は下がるけどな」
「なるほど」
なら、今度はみんなと行こうかな?
「2人以上なら3階に行った方が良いぞ」
「な、なるほど」
2人なら1階深部が効率が良く、2人以上なら3階に下りた方が効率が良いのか。
確かに進行スピードと殲滅率も格段に上がるし、態々1階深部に行くよりも3階で普通に倒した方が良いか。
「武器のメンテだろう。預かるぞ」
「あ、はい。お願いします」
僕と和人はカウンターに武器を置く。
僕は盾も一緒だ。
「ライセンスを貸してくれ」
素直に従う。
武器と武器の所有者の登録を行っているのだろう。
すぐに武器は奥に持って行かれた。
「料金は?」
彼も商売だ。
無料で仕事をするわけはない。
「素材で」
「《石》か?」
「はい」
そう言って数個の《石》をカウンターに置く。
「ふむ」
猛さんはルーペのようなモノを取り出して一個づつ調べ始める。
「この3個で良いだろう」
「分かりました」
俺は出した数十個のうちの3個を料金として出した。
和人は4個だった。
ついでに僕と和人はライセンスにお金をチャージした。
さらに《石》を5個ほど猛さんに渡した。
「明日も潜るのか?」
「僕は潜ります」
「俺も」
和人もボソッと答える。
大丈夫か?
「なら明日までに仕上げておく」
「ありがとうございます」
「ども」
猛さんにお礼を言ってお店を後にする。
【イバダン】はホコリっぽいので靴や装備がすぐに汚れる。
そのために、ダンジョンから帰った人たちは備え付けの温泉に入るのだ。
更衣室には向かわずに温泉のある場所に向かう。
大浴場で、いろいろな温泉がある。
ただ、露天風呂はない。
なぜならここは地下だからだ。
似たお風呂はあるけどね。
さすがに疲労困憊なので僕たちは長風呂をする気はなかったが、ここで風呂に入りながら装備一式を洗浄する機会があり、洗浄に約30分ぐらいかかる。
普通にお風呂に入るぐらいの時間だが、早く出る待たないといけないのだ。
このお風呂は無料だが機械洗浄は有料である。
先ほど猛さんのお店でチャージしたライセンスで支払う。
和人は販売機でパンツも買っていた。
僕もだが。
お風呂に入りさっぱりしたところで装備を回収し、キレイに畳む。
キレイに畳まないと荷物ケースに収まらないのだ。
そしてパンイチで更衣室に向かい、着替えたり荷物を詰め込んだりといろいろして更衣室を出る。
ダンジョンで拾った〈石〉はポケットに入れ、荷物は預ける。
預ける際にも認証をする。
そして受付で帰る挨拶をして、ビルの2階に行く。
和人はお風呂に入って少しスッキリしたのか眠くなさそうだった。
そう思えば風呂場で寝ていたような気がする。
「真守。〈石〉はどうするんだ?」
「どうするって?」
「売るか、預けるか」
「ん~。一応は預けるかな。家賃とかは払ったし、今欲しい物もないから」
「そっか」
そこで話が終わった。
何を聞きたかったんだ?
エレベーターが2階に到着し、扉が開く。
地下1階と同じようなオフィスビルの受付のような作りの階で床の色が違うだけだ。
ただ、受付の場所が多い。
素材は毎日多く持ち込まれるために混まない対策として多く受付を設置しているが、たまに混んでいる時もある。
今は空いているようだ。
僕は開いている受付に行く。
「こんばんは。どのようなご用件でしょうか」
このビルの受付は基本女性だ。
良く分らないが、ここのオーナーがそういう方針なんだとか。
「素材を預けに来ました」
「ではこちらに素材をどうぞ」
そう言ってトレーを出される。
俺はポケットから〈石〉を取り出し、全部置いた。
「以上ですか?」
「はい」
「少々お待ちください」
俺が渡した〈石〉は受付の女性に小さな袋に入れられ、重さを量られる。
「ではライセンスを貸して頂けますか?」
「はい」
ライセンスを機会にかざし、すぐに返される。
「ではお預かりいたします」
「よろしくお願います」
隣を見ると和人がお金を数えていた。
全部お金に変えたのかな?
封筒に入れて大事にカバンに入れている。
「帰るか」
「そうだな」
深くは聞かない。
言うなら言うし、言わないなら聞かないでほしいってことだろう。
和人は疲れたと言ってなぜかタクシーで帰っていった。
そこまで疲れたかな?
俺はバスで帰り、自分のマンションがある場所で降りる。
歩いて10分もしないが、その前に晩御飯をコンビニで買って帰る。
自炊はめんどくさい。
帰ったら一人反省会だな。
今日は少し危なかった。
慢心が危険を呼ぶのだ。
常に最悪の想定をしなくてはな。
〈冒険者の一番の恥はダンジョンで死ぬことであり、一流は必ずダンジョンから生還する〉のだ。
僕はまだまだ両親には程遠いな。
ダンジョンは仲間たちと共に!! イナロ @170
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