ダンジョン(中)

 〈ダンジョン0階層〉


 ビルの真下に位置するここが日本に4つしかない《ダンジョン》一つの【地の茨】通称は【イバダン】だ。

 茨城県の《ダンジョン》だからなのか、【地の茨】だからなのかは分からないが、昔からそう呼ばれている。


 ここは洞窟型の《ダンジョン》で、土の埃っぽさと少々の湿度がある。

 外はあんなに暑いのに洞窟だからなのかここは涼しい。


「臨時パーティー募集中で~す」

「物々交換するよ~」

「買い忘れたものはないか~」


 など、人を募集しているぱパーティーや等価交換の概念がない交換屋、ビルの上の階で売っている小物類は倍の値段価格の雑貨屋など相変わらずガヤガヤと人が多いな。


 ここは《ダンジョン》の0階層だ。

 ダンジョンに入ってすぐの大きな部屋は学校のグラウンドがすっぽり入る広さのがあり、天井も高い。


 ここはモンスターが姿を出さないので市場のような感じになっている。

 

 辺りを眺めていると話しをかけられる。


「そこに兄さんたち。俺らと潜らないか?」


 おそらく3人の臨時パーティーの募集だろう。


「すいません。これから仲間が来るんで」

「そうか。いや、こっちこそすまなかった。それじゃ」

「あぁ」


 すぐに去っていく。


 僕が言ったことはもちろん嘘だが、誘われた場合に断る定型文だ。

 安易にパーティーを組む気がないと告げるとトラブルになるケースも多いから断り方も重要だ。


「和人。身体を慣らそう」

「そうだな。どこか空いてるか?」


 人が多い入口付近ではなく、中央の人がいない台座付近に到着する。

 中央には高台のようになっていて、ここには人は来ないように注意される。


 その周辺は僕たちのように準備運動をする人たちのため広く空いている。


「ここらで良いか」

「そうだな」


 和人が足元の横になっている赤い旗を起こし、地面に突き刺す。

 僕も数メートル間隔を距離をとって旗を刺した。


「よし」

「じゃ、やるか」


 僕と和人は旗を背にして武器を構える。



 真守は左手に盾を、右手に剣を構える。


 対する和人は腰に携えた刀を抜く。

 和人の刀は鞘に収まった状態だ。


 お互い、姿勢を正す。


 先に動くは和人。


「ッシ!」


 刀を振り上げ、真守の頭目掛けて振り下ろす。


 その攻撃を真守は盾で受け流し、右に避ける。

 受け流された和人は切り返し、横に一閃。


 真守は盾を使わず、後ろに半歩下がり躱す。


「ッフ」


 胴が開いたことで和人は刀を突き刺す。

 

 真守は盾を使って正面から止める。


「ッグ」


 その際に衝撃と甲高い音が響く。


 瞬間、真守は盾を傾けて拮抗した力をずらす。

 和人は力を流され、重心を崩す。


 その隙を逃さず、懐に飛び込む真守は盾の底を和人の腹に叩き込む。


「グハッ」


 和人は数メートル吹っ飛んだ。



「あ……」


 間違って攻撃してしまった。


「ゲホッゲホ!」

「ご、ごめん、和人!」


 すぐに駆け寄った。


「お前、容赦なく鳩尾に盾をぶち込むなよ。しかも面じゃなくて縦で使うとか」

「ほんとごめん!」


 剣を腰の鞘にしまって和人に手を差し出し、和人を起こす。


「あ~。潜る前に飯を食わなくてよかった。食ってたら間違いなく吐いてたな」


 そう言って腹を摩っている。


 話を逸らすか。


「いや~。それにしても突きが以前より鋭くなってたから受け流せなかったよ」

「余裕で止めやがって」


 いやいや、結構ギリギリでしたよ?

 思いのほか焦ってしまい反撃してしまった。


「身体の浮遊感は?」

「ん~。もうちょいだな」

「了解」


 今度は僕が攻撃か。


 赤い旗を刺している間に移動し、再び武器を構える。



 先に動いたのは真守だ。


 盾を正面に構え、和人に突進する。


 和人は右に回り込むように避ける。

 真守は大振りに盾を振る。


 和人はその攻撃を身体を後ろに引くことで躱す。


 だが、真守は右手に持っていた剣で鋭く突き刺さす。


 和人は刀で弾くことはせず、最小限の動きと見切りでさらに右側へ躱す。


 しかし、先ほど大振りした真守の盾が頭上から迫っていた。


 和人は鞘で盾の軌道をそらす。


 が、再び剣が迫る。


 横の軌道で迫る真守の剣を和人は左足で真守の剣を握る腕を止めた。


 攻防はそこでおわった。



 準備運動だからこのぐらいで良いか。

 それにしても。


「足で止められるとは思わなかったな」

「まだまだ勝てないか~。くそ~」


 準備運動に勝ちも負けもないとは思うんだけどな。


「それじゃ、行くか」

「あぁ」


 赤い旗を倒して、3ヵ所ある入口のどれかに向かうんだけど。


「下には行かないから下の階段が少ない入り口で良いんだよな?」

「もちろん」


 その前にっと。


「和人、チャンネルを合わせるから近くに来てくれ」

「あいよ」


 僕と和人は自分のヘルメットの右耳辺りにあるボタンを押す。


 数秒後、和人が口を開けて喋る。


『繋がったか?』

「あぁ、ばっちりだ」


 電話通話のように耳元から和人の声が聞こえる。

 お互いヘルメットをしているため、お互いの声が聞き取りずらいから通話によって会話する。


 ここは大きな声を出しても問題ないけど、1階からは物音はなるべく無くしたほうが良いからな。


「俺の声も問題ないか?」

『あぁ。いい感じのイケボだ』

「はいはい」


 よくわかんことを言う。


 それじゃ、1階層に行くか。


 〈ダンジョン1階層〉


 1階層は迷宮系だ。

 道のアップダウンはなく、平らな道が続く。


 ただ、曲がり角や行き止まりが多いのが難点だ。

 ダンジョンは地面も壁も天井もまったく同じなので初心者は自分が来た道を忘れてしまうと脱出は困難になってしまう迷宮だ。


 僕と和人は隊列を組んで進む。


 僕が前で後ろが和人だ。


 一直線ではなく、左右に少しずれている。

 これはお互いに前後左右を確認するためにこうしているのだ。


 しかし意識では僕は前を注視し、和人は後ろを警戒している。

 これも訓練の一環だからな。


 しばらく進むと、前方で何やら音がする。

 僕は和人に視線を送る。


 頷いた和人は抜刀し、構える。


 僕も剣を構え、前方を注視する。


 すると、男女半々のパーティーが喋りながら近づいてきた。

 すぐにそのパーティーは話を止め、戦闘態勢に入る。


 だが、すぐにモンスターではないと思うと武器を下げてゆっくりと僕たちとは逆の壁側にそって進む。


 徐々に近づき、すれ違う。


 お互いに、警戒をしながら彼らは姿が消える。


 それから数度、同じようにモンスターではなくパーティーと鉢合わせる。


『真守、ちょっといいか』


 和人からの通話で足を止める。


「どうした?」


 目を合わせて喋ることはしない。

 後ろと前を警戒しながら喋る。


『一階の手前付近は人が多すぎる。効率を考えて奥に行かないか?』

「奥はモンスターの種類とエンカウント率が変わる。もしもの時はどうするんだ」


 僕たちは2人しかいない。

 もし、どっちかが大けがをした瞬間に戦う者がいなくなるのだ。


『その時はアレを使うのを視野に入れよう』

「アレか」


 効率を考えるなら《ハクサイ》よりも《イネ》の方が経験値的に美味いのは確かだ。

 もしものことを考えるが、僕と和人がアレを使えば最悪は脱せるか。


「あくまでも《イネ》が出る付近で戦おう」

『わかった』


 僕はヘルメットの機能を起動し、1階層の地図を確認する。

 この地図はビルから買うことで定期的に更新もしてくれる便利な地図だ。

 こに地図には探索用のドローンを定期的に飛ばして構成されているらしく、入口付近からかなり奥まで網羅されている。


 だが、ダンジョンは不定期道が変わるから完全に信用するのは危険だが。


 地図を見て入口からどんどん奥へと進む。


 そして、《ダンジョン》に入って初めてのモンスターが姿を現した。


 形はデカい白菜のようなキャベツのようなモンスター。

 正式名称は《野菜獣キャベツ科》だが、茨城県の昔の特産である白菜が尾を引いていしまい、《ハクサイ》呼ばれている。


前方ハクサイ

『俺が先にやる。確認よろしく』

「分かった」


 僕は下がり、和人が前に出る。

 モンスターは僕たちを認識していないようで動く素振りは見せない。


 和人は抜刀し、モンスターに肉薄した。


 そして刀を横に一閃した。


 モンスターは黒の煙となって消える。


「前後クリア。お疲れ」

『あれ? 一撃で倒れた』

「多分、寝てたんじゃないか?」

『あぁ、クリティカルか』


 そう言って、刀を空振りして鞘に納める。


「進むか」

『あぁ』


 進み始めるとすぐに《ハクサイ》が姿を現し、僕たちの方に迫ってくる。


 僕たちは構え、待ち受ける。



 モンスター《ハクサイ》が真守目掛けて体当たりをかます。


「併せろよ」

「任せろ」


 眼前に迫る白菜を横から盾で弾く。


 《ハクサイ》は突進する力を利用され身体を回転させられてしまう。


 その回転に合わせ、和人が真守の後ろから飛び出して《ハクサイ》に切りかかる。


 回転と合わさり、切り口が胴を1周する。


 真守は飛び出した和人とは逆に移動し、剣を振る。

 和人は振り抜いた力を利用し、自身を回転させて回し切りをした。


「ッラァ!」

「ッシ!」


 《ハクサイ》は迫る2つの斬撃を動くこと叶わず、その身に受けて黒い煙となって消える。



「後方クリア」

『前方クリア』


 よし、うまくいったな。


『オーバーキルだったか?』


 和人が先ほどと同じく刀を空振りして鞘に納めながら話した。


「いや、確実に倒すためにはあれぐらいでいいだろう」

『そうか』


 それから何度も《ハクサイ》と戦闘をしながら先に進む。


 そして辺りに変化はないだが、空気が重くなる。


『空気が変わったな』

「そうだな。おそらく深部に入ったんだ。一段と警戒を高めよう」

『了解』


 警戒を高め、数分。

 カサカサと音がした。


 僕は進む足を止めた。

 すぐに後ろの和人もすぐに止まる。


 目を凝らし、前方を注視するとお目当てのモンスターが来た。


 藁で出来た人形型のモンスター。

 正式名称は【野菜獣二足歩行型】というが、堅苦しいので大半が《イネ》呼んでいるモンスターだ。

 《イネ》は強さ的には《ハクサイ》よりも少し強い程度だが、こいつは効率がいいのだ。


 その理由はなんと言っても。


『出てくるぞ』

「あぁ」


 藁人形のような身体が震えだし、藁の中からポロポロとサッカーボールのようなモノが溢れ出す。


『何度見てもどこにそれほどの大きさのモノが入っているのか不思議だ』

「ダンジョン自体が不思議だからな。考えても仕方ないだろう」


 《イネ》はその身体から出した子分を戦わせるのだ。

 そしてこいつらは《イネ》を倒さないと定期的に排出される。


 こいつらを出す前に通常は倒すのだが、子分を倒すだけでも経験値がもらえるから効率がいい。

 難点は子分の身体が固いのだ。

 大きな米粒のような白い身体はまんま米のようだ。


 ほかにも倒すより敵の排出が多いと囲まれてしまい、最悪の結果になる。


『どっちが多く倒すか勝負だな』

「良いけど、警戒は緩めるなよ」

『あいよ!』


 そう言って敵に肉薄する和人。

 僕も後を追い、敵に剣を振り下ろす。

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