ダンジョン(外)

 学校のホームルームが終わり帰宅する者はぞろぞろと下校したり教室でたむろっている。

 部活に所属する者は着替えてそれぞれの場所に向かうのだろう。


 そんな事を考えていると、隣から声をかけられる。


「帰ろうぜ。真守」


 帰る準備が出来た和人だ。


「あぁ」


 僕も支度は出来ていたので席を立ち、教室を後にする。


 上履きから外履きに履き替えながら和人と軽い打ち合わせをしていると、玄関にいた一人の女子生徒から声をかけられた。


「あ、来た。ちゃっす!」

「お、実里。ちゃっす! お前、メール見たか?」

「あ~今、スマホ壊れちゃって修理中なんだよね。なはは」

「お前、この前もそんなこと言ってなかったか?」


 四方しほう実理みのり 女性 高校2年生 彼氏はいるのか不明。


 俺たちと同学年で身長は160ほどのスポーツマンって子だ。


 和人曰、非公式ファンクラブがあるらしい。

 なんでも男女比は意外にも半々で同性である女性にも人気だとか。


 確かにボーイッシュっていうか髪型がショートで性格も男子っぽいところもあるからな。


「昨日、暑くて川に飛び込んだら水没しちゃってさ」

「お前は考えるってことをしないのか」


 和人が注意するとはな。


「あ、真守くん。ちゃっす!」

「ち、ちゃっす」


 この挨拶はしなくてもいいと思うんだが。

 それと、和人との話がまだ終わってないと思うんだけど。


「まぁいいや。俺たちはこれから行くんだけど、お前はどうする?」

「あ~、今日は部活なんだよね」

「そっか。わかった」

「ごめんね」

「問題ねーよ」


 そう言えば何で実里はここで僕たちを待っていたのだろうか。


「僕たちに何か用だったのか?」

「いや、スマホの件をみんなに伝えてほしいと思ってね。職員室に行って愛華ちゃんに伝えようと思ったんだけど、すれ違いでいなかったんだよ」

「そういうことか」


 和人はスマホを取り出してみんなに実里の件を伝えた。


「ありがとうね。助かったよ」

「あぁ」

「部活頑張ってね」

「うん。またね!」


 そう言って走っていく実里。

 元気な奴だ。


「今日は俺たちだけだな」

「ま、そんな日もあるさ」


 こうして本日のメンバーが2人と決定した。

 龍谷は返信が来ないらしい。


 茨城県にある《ダンジョン》【地の茨】はこの学校からバスで45分のある。


「2人で潜るのはいつぶりだ?」


 バスの席に着くなり、和人が質問をしてきた。


「高校に入ってすぐの頃は2人だったよね」

「あ~そうだな」


 この1年でいろいろあったものだ。

 そのおかげで仲間が出来たのは良いことだけど。


「最初に会ったのは愛華ちゃんだよな?」

「そうだったね」


 懐かしい。

 新米教師の愛華さんはダンジョンに入るのも初心者だった。


「その次が~」

「知郡さんだよ」

「そうだ、そうだ」


 本当に覚えているのか怪しいもんだな。


 あの頃に比べたら知郡さんも立派になったもんだ。


「で、龍谷」

「あいつは変わってないね」


 最低でも学校には来いと言いたい。


「最後が実里か」

「そうだね。身体を動かしてたからみんなにもすぐに追いついたし」

「あいつは頭より先に身体が動くタイプだからな」

「そうだね」


 少し笑ってしまったのは仕方ない。


「みんな成長してるよ」

「……そうだな」


 和人はお昼のことを気にしているのか、それからは窓の景色を眺めるだけで静かなものだった。


 静かなバスに乗って到着した場所はどこかのテーマパークのように人がひしめき合い、体感温度がプラスされる。


「平日でもこの人混みか」

「土曜はもっとすごかったよ」

「うわぁ~」


 さすがは人気がトップクラスな茨城県だ。


 《ダンジョン》の恩恵と言っていいのだろう。

 中学で茨城県の歴史を調べた時に、不人気な県としてワーストクラスだったのは本当に驚いた。


 今では考えられないよな。

 ここにはダンジョンのほかに宿泊施設兼リゾート施設が多い。


 《ダンジョン》を深く潜れる人はお金を持っているってのは普通だし、たしかカジノもあったな。

 つまり、大金が動く。


 地元は活性化するな。


 ここまでのレジャー施設を設置していることで交通も便利だし、外国人の来場も多いとテレビのニュースでもやっていた。


 だからこんなに人が多いんだよな。


 そんな人込みを進み、周辺にある一番大きな建物に入った。


 空港などにある金属探知機のゲートをくぐり、改札口に到着。

 バックの中にあるライセンスをかざす。


『大月 真守様。認証しました』


 機会の音声がすると同時に改札が開き、向かいにあるエレベーターに進む。


 ちゃんと和人が付いて来ているを確認し、エレベーターのボタンを押して待つ。


「このビルは人がいなんだよな」

「円状に入る場所があるから混まないようになってるんだよ」

「それでも外は冗談の混雑しているのにな。まぁ人がいなくていいけど」


 《ダンジョン》周辺にはさっきも言った宿泊施設やリゾート施設がある。

 そして、外国人観光客などに向けたお土産屋も多い。


 《ダンジョン》入る人たちは長期滞在も多いので日用雑貨などを売る大型スーパーもある。


 温泉があるのも人気の理由でもあるか。

 武器や防具のお店も多く、モンスターの素材で今ではあまりお金にならないモノはアクセサリーやストラップなどになって売っている。


 日本の《ダンジョン》はそれぞれが独特の構成をしているからご当地感があるよな。


 と、エレベーターが到着した音がして扉が開く。


 和人はスマホを弄っている。

 僕も一応は確認したが、誰からも連絡はなかった。


 すぐに止まってエレベーターの扉が開いた。


「ここまでくると身体が軽いな」

「真上辺りだしね」


 降りてすぐに《ダンジョン》に繋がってはいない。


 エレベーターを降りると、そこはオフィスのような質素な作りのロビーだ。

 受付と、座れる席がたくさんある。


 地下一階はドーナッツ状に廊下があり、中心がエレベーターになっている。


 受付はここだけはなく、4カ所ある。


 すぐに正面受付に向かう。

 和人は隣だ。


「こんにちは」

「こんにちは、真守くん。今日も潜るの?」

「はい」


 何度もダンジョンに入るので受付の人に名前と顔を覚えられてしまった。

 困るほどのことじゃないけどね。


 受付の女性の名前は坂畑さんだ。

 下の名前は知らない。


 多分、愛華さんと同じぐらいの年齢かな?

 ここでナンパされているのをよく見る。


「では、こちらにサインをお願いします」


 渡された一枚の紙はいわゆる、死んだ場合の責任なんたらの同意書だ。

 《ダンジョン》自己責任だからな。


 でも保険とかはあるのだ。

 結構、高いけど。


 それをサラッと書いて渡す。


「では、どうぞ」


 手続きはこれで終了だ。


 受付の左の扉が男性用で右が女性用の扉となっている。

 扉をくぐると螺旋階段になっており、さらに一階降りる。


 そして男子更衣室に向かうのだが、僕たちは荷物をこのビルに預けているのでまずはそれを取りに行く。


 階段を下りて向かいが男子更衣室が階段横の部屋に入る。

 そこには空港のようなコンベアーがあり、近くにタッチパネルがズラリと並んでいる。


 ここでは暗証番号と改札の時にかざしたライセンス、指紋に静脈に網膜に顔といった認証をクリアしないと受け取ることが出来ない。


 高いセキュリティーは預けているモノの大事さからだな。


 それにこの荷物は重量もそれなりにあり、持って帰るのはめんどくさいので自分で持っているよりもセキュリティーがしっかりしたここに預けるが一般的だ。


 日本には4つしか《ダンジョン》はなく、それぞれの場所が遠いため持ち歩く必要性があまりない。


 そして荷物をもって更衣室に向かう。


 学校から持ってきた教科書とか入ったバックとかもロッカーに入れておく。


「あ、着替え持って来るの忘れた」


 隣で和人がボソッと口を開いた。


「服か?」

「いや、パンツだ」

「買えば?」

「金持ってきてない」

「素材は?」

「あ、いけるか」


 何だよ、人騒がせな奴だな。


 荷物を開けるとそこには自分の防具が入っている。

 ちなみに防具の着用時には下着は着用しない。


 代わりに全身タイツのようなモノを着る。

 通常の下着類では摩擦や防具の着用時に邪魔になるので着ないのだ。


 すぐにボロボロになり最悪は破ける運命なのだ。


 変わりが伸縮性があり、身体を覆う感じのタイツだ。


 この全身タイツはバカに出来ない性能を持っている。

 このタイツにはカーボン繊維が編み込まれているので耐摩耗性が高く、下着の代わりになる。

 下手な防具よりも優秀で日本のダンジョン課では推奨もしているほどだ。


 そして荷物の中からは着る物だけではなく、身に着ける物も取り出す。


 僕の身に着けるタイプの防具の種類は少ない。

 僕の好きな防具メーカーは衝撃吸収性能が優秀な事で有名のブランドで角張ってる感じの防具ではある。


 頭部を守るヘルメット。

 胴はジャケットと胸部と背部のプロテクター。

 下半身は男性必須の大事な息子を守るポケット付きパンツに膝と脛のプロテクト。

 靴は安全靴だ。


 ヘルメットはジェットヘルメットをもう少し薄くした感じのモノで腕の装備はない。


 以前、実里にバイクに乗ってる人みたいと言われたことがあり、鏡で自分を見て確かにそんな感じにも見えると思った。


 このメーカーの防具は大体そんな感じに見えてしまうのだ。


「和人、準備できたか?」

「あぁ」


 和人も準備が出来たようだ。


 和人の防具は軽量系メイカーのブランドだ。

 頭部は俺と似たジェットヘルメット同じだが、全身を同じメーカーで揃えるのは和人も僕も一緒だ。


 和人が好きなこのメーカーは軍にも配備されるような防具を売っている。

 一定水準の防御力に軽さを実現したとのキャッチコピーで絶賛売り出しているらしい。


 僕のゴツイ感じのプロテクト系とは違い、ソフトな感じのプロテクトだ。

 防弾チョッキと似たタイプだな。


 実里からは、スノボーをやっている人に見えるそうだ。

 俺もそう思う。


 色が薄い青なのは好みだな。

 ちなみに僕は黒だ。


 和人は腕にも防具があり、手甲もしている。


 このまま山を滑りそうな感じだな。


 こんな感じで準備を終えた俺たちは更衣室に入った逆の扉に向かい、武器を預けているお店に向かう。

 位置的にはエレベーターの真下だな。


 そこにダンジョンの入口と武器のメンテナンス店があり、僕たちは迷わずお店に足を運んだ。


「らっしゃい」


 入るとまばらに武器が置いてある。

 ちゃんと鎖が付いているから持ち逃げは出来ないようにされている。


「どうした」


 カウンターの奥から強面の男性がやってきた。

 このお店のマスターのたけるさんだ。


 防具や武器のメンテナンスをしてくれるこのお店はダンジョンに入る者にとっては無くてはならない存在である。 


「武器を取りにきました」

「おう。ライセンスを貸してくれ」


 強面の猛さんに僕と和人はライセンスを渡す。


 レジのよう機会を何か打ち込み、ライセンスをかざしてカードはすぐに返される。


「ちっと待ってな」


 そう言って奥に行ってしまった。


 和人は置いてある武器を眺めていた。

 僕は少し身体をほぐしている。


 すると、猛さんが台車に武器を乗せて運んで来た。


「これで間違いないか?」


 そう言われて和人は武器を軽く振り、僕も手に馴染ませるように何度か握る。

 間違いなく、僕の武器だ。


「間違いなく」

「あぁ、間違いないな」


 受け取りのサインをしてようやく僕たちはダンジョンに足を踏み入れるのだった。

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