第15話

「さすがに最低ランクのFだと護衛の仕事はない。そこでランクアップの試験を受けてはどうだ?」

「ランクアップですか? まだ入ったばかりだし、依頼も薬草採取しかしていませんよ」


 ヨルダンからランクアップの話を聞いた理玖は首を傾げた。


「リクは魔法を二つも使えるから、特別枠で受けることができる。ちなみにアップできるのは二ランク上までだからDの試験になる。ランクがDになれば隣国までの護衛の仕事もあるぞ」


 理玖に選択肢はない。神の島リーンに行くためには手段を選んではいられないのだ。

 目指せDランクしか道はない。


「それで試験はいつあるんです?」

「今からだ。相手も用意してある」


 あまりにも準備が良すぎる気がしたが、早い方が良いのは理玖の方なのでありがたい。


「それではよろしくお願いします」




 ヨルダンに連れてこられたランクアップの会場は入った瞬間、違和感を感じた。理玖が首を傾げると、ヨルダンがニヤッと笑う。


「さすがだな。入っただけで分かったか。この場所で怪我をしても、死んでしまっても元に戻るように作られている場所だ。魔法も使いたい放題使えるぞ」

「これも魔法なんですか?」

「魔法とは違うらしいが詳しいことは知らされていない。冒険者ギルドだけが持っている知識であり財産の一つだ」


 冒険者ギルドはどこの国にも属さないことで有名だが、そんなことができるのも独自に持っている知識があるからだった。


「それで誰と戦うんですか?」

「リリカだ。剣の腕よりも魔法がどれだけ使えるかが見たい。護衛の仕事を斡旋するのに、使えないような奴を推薦できないからな。もし対した理由もなく失敗すればギルドの汚点にもなる」


 護衛を冒険者ギルドに依頼するのはギルドを信頼しているからで、ギルドはその信頼を裏切らないよう努めている。


「さあさあ、難しい話はそこまでよ。私が火の魔法を放つから、防御してみなさい」


 リリカは違う扉から現れた。いつまでたっても呼ばれないので、勝手に出てきたらしい。


「えっ? 防御?」


 防御のことなど全く考えていなかったので、とっさに氷魔法で火の魔法を相殺した。

 ジュワッと音がして氷が解ける。

 いくら死なないといっても、これは怖い。丸焦げにはなりたくないと理玖は思った。理玖はリリカの火の魔法しか知らない。

 長引けば長引くほど不利だった。理玖は先手必勝しかないと昨日から、練習していた氷魔法の氷漬けを使ってみることにした。この場所でならやりすぎたとしても死ぬことはない。

 火魔法で溶かされるかもしれないことを想定して、魔力をたっぷりと使う。

 おもいっきり魔法を打ち出した。


「…これは…、」


 ヨルダンが言葉をなくしていた。すこしやりすぎだったかもしれないと理玖は思った。

 だが理玖の想定していた通り、人間の氷漬けが出来上がっていた。


「氷漬けです。これだと死ぬことなく捕らえることができます」

「いや、死ぬだろう。息ができないからな」

「え???」


 理玖はなんとなく仮死状態になるように思っていたけど、これだと死んでしまうようだ。アニメのようにはいかないらしい。仮死状態にするには温度の微妙な調節が必要で、理玖の魔法でそこまでの調節は無理だった。

 この場所だったこともあってリリカは無事だったが、危ないところだった。理玖はもう少し考えてから行動しなければと痛感させられた。


「だが山賊や盗賊相手に遠慮はいらない。遠慮していたら足元をすくわれるからな。その氷魔法は使えるぞ。一瞬で凍らせるわけだから、複数いても一人一人相手にしなくていい。Dランク合格だ」


 ヨルダンが言うように山賊や盗賊相手には遠慮はいらないのかもしれない。息ができるように氷漬けできないかと考えていたけど、考えることをやめることにした。正当防衛だと思うことにした。一瞬の躊躇が命取りになる世界で甘い考えは厳禁だった。


(生きて必ず神の島リーンに行かなければならない。この身体は自分のものであって自分のものではない。須賀花奈に返さなければならないのだから、甘いことを言っていては駄目なんだ)


 理玖は必死に自分に言い聞かせていた。持ち主に返すためにもこんなところで躓くわけにはいかなかった。


「おめでとう、リク」


 氷漬けにされていたことは全く感じさせないくらいに元の状態にもどったリリカに祝福されて理玖は戸惑った。


「あ、ありがとうございます」

「私にもいい経験になったわ。次は氷魔法を打てないくらい強い火魔法を使うから。負けないわよ」


 遠慮しときますと心の中で思いながら、理玖は曖昧に笑う。

 これで準備は整った。なるべく早く隣国への旅に出なければならない。

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チェンジ〜理玖〜 小鳥遊 郁 @kaoru313

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