第14話

 理玖は宿に戻ってからも氷魔法の練習をしていた。まずは小さな氷を生み出すことからやってみる。コップな中に小さな氷を一個ずつ作る。

 魔力の無駄遣いをしないためにも、こうした作業を繰り返すことが大事だとリリカから貰った魔法の本に書かれていた。

 何度も繰り返すことで、身体が感覚を覚えていく。どのくらいの魔力で、どれだけのことができるのか。そして攻撃だけが魔法の本質ではないということを知った。

 地味な作業だけど理玖はこうしたことが嫌いではない。コツコツと努力をすれば、その先には必ず結果が現れる。


「うん。この調子でいけば氷漬けもすぐにできるようになるな」


 自分にどれだけの魔力があるのか理玖は知らない。だから何度も魔法を使う。昼間に使った分と合わせれば限界が来ていたことに気づかなかった。

 そしてその結果、理玖は知らない間に眠っていた……いや、気を失っていた…。



「あれ? いつの間に寝てたんだ?」


 太陽の光で目が覚めた。魔法を使っているうちに寝ていたらしい。

 理玖は頭を振って、起き上がる。なんとなく身体が臭い気がして、理玖は眉を寄せる。

 この世界に来てから風呂に入っていないことに気づいた。さすがにまずいなと理玖は思った。

 それに風呂付の部屋をわざわざ借りた意味がない。だが風呂に入るのは億劫だった。他の人から見れば役得だと思うかもしれないが、次に会ったときに冷たい目で須賀花奈に見られるだろうこと思うと億劫になる理玖だった。


「確か、目を瞑って入れと言われたよな。どうやって入ればいいんだ?」


 神様から聞かされた須賀花奈の伝言を思い出して理玖は頭を抱えた。

 結局見られていないのだから少しだけ目を開けて入ることにした。怪我をするよりはいいだろうと前向きに考えることにした。なるべく見ないようにと心がけながら服を脱いで、風呂に入る。

 理玖は湯船につかり「ふうっ」と息をつく。風呂はやっぱり癒される。

 不思議な気分だ。湯船の中の身体を見る。そのときの理玖にはあまり見ないようにというさっきまでの殊勝な考えはどこかに消えていた。

 確かに女の身体なのに、不思議と何も感じない。

 理玖は首を傾げていた。


「自分の身体なんだよな。やっぱり」


 須賀花奈の身体なのかもしれないけど、今は自分の身体なんだなと理玖は感じる。だから変な気は全く起らない。

 この感覚は説明できないことだから、須賀花奈には黙っておこう。

 久しぶりの風呂を堪能してから、風呂から出る。サッと身体を拭いて昨日と同じ服を着る。他に着替えがないのだから仕方がない。


「さすがに服がいるなあ。女物の服や下着なんてどこで買えばいいんだ? 」


結局リューリに聞いた店で買うことになった。

 最初は選ぼうと努力はしたが、種類も沢山あるしサイズもよくわからない。理玖は途方に暮れていた。

 店員は見るに見かねたのか、理玖のサイズを測って選んでくれた。


「どのくらい買う予定ですか?」

「今着ているのしかないので、一通り揃えてください。あっ、旅に出るから少し多めで、かさばらないようなものの方がいいのかな」

「そうですか。今着ている服を参考に選びましょう。あと旅にでるのなら、マジックカバンを買われた方がいいですよ」

「マジックカバンって、もしかして容量以上に入るカバンのことですか?」


 理玖はその時本の中でしか存在しなかったマジックカバンが手に入ると聞いて、興奮していた。


「そうですよ。空間魔法を利用して作られたカバンです。旅に出る方はもちろん、冒険者の方は必ず持っています」

「どこで売っていますか?」

「ここでも売っていますよ」

「買います。あっ、でもお金が足りるかな」


 神様から貰ったお金はまだだいぶ余っていたが、マジックカバンの値段が心配だった。


「計算してみますね。この鞄は五十キロ入るカバンです。それと服と下着を数種類で、金貨一枚と白銀貨五枚です」


 理玖は頭の中で計算する。だいたい、日本円で十五万だった。高いかどうか判断はつかないが、カバンは冒険者として生きて行けば必要なものだから買うしかない。


「それでお願いします」


 服や下着はカバンの中に入れてもらった。カバンはショルダーバックになっていて、大きさもそれほど大きくないから邪魔にもならない。


「あっ、そうだ。旅をするときは洗濯とかどうするんでしょう」

「洗濯ができる魔石をもっていけば、洗濯もしてくれて乾燥までしてくれるから便利ですよ。隣の魔石屋で売っています」

「それは便利ですね。ありがとうございます」


 異世界は不便そうで、便利な世界だなと理玖は思った。

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