第13話

「何? 神の島リーンに行くだと?」

「ああ、その予定だ。一番早く行ける方法を知っていたら教えて欲しい」


 冒険者ギルドに戻るとヨルダンが待っていた。

 リリカはリクがどれくらい使えるか報告していた。


「火魔法は使えるようだが、他も使えるのか?」


 理玖は少しだけ考えて、


「あとは水と風は多少使える」


と答えた。全部言うのは騒ぎになりそうなのでやめておいた。

 それでもヨルダンは驚いていた。


「三つも使えるのか。う~ん。それだと護衛で雇ってもらえるかもしれないな」

「護衛?」

「まだ冒険者を始めたばかりだからランクが低いが、三つも魔法が使えるのなら雇ってもらえるかもしれん」

「隣の国までの護衛ならたくさんあるから、それを引き受けたらいいわ。リーンに早く行きたいのはわかるけど、一番低いランクの場合は護衛任務を一つこなせばランクが一つ上がるの。一つ上がれば、それだけ遠くの国に行く護衛任務も引き受けられるようになるわ」


 リリカとヨルダンに説得されて、理玖は隣の国までの護衛が来るのを待つことにした。

 理玖はそれまでは薬草取りをして過ごすことにする。

 薬草取りなら一人でも大丈夫だし、もしゴブリンが出てきても火魔法がある。そして理玖はリリカとヨルダンには言えなかったけど、魔法の練習をしておきたいと考えていた。火魔法のようにスキルにあるから使えるとは思うが、予習をしていないといざというときに使えない気がするのだ。



 リリカに教えてもらった薬草がある穴場の場所に着くと周囲に誰もいないことを確認する。

 水魔法も火魔法と同じように頭で思い浮かべてから放つ。今日は見本がなかったせいか、水の量が多く的にしていた木を倒してしまった。


「いくらなんでもこれはまずいな」


 水で粉砕された木を証拠隠滅のために燃やしておく。ゴブリンを燃やすことでこれだけは上手になっていた。

 風の魔法はなるべく小さくと想いながら使ったが、やはり木を倒していた。


「まずいな。これを使うと簡単に殺してしまう。魔物ならいいが人間だった場合、さすがに寝覚めが悪い」


 ブツブツと理玖は呟く。護衛をするということは魔物だけでなく、盗賊などからも守らなければならない。そこを考えると気絶させるくらいの魔法が理玖としては望ましいと考えていた。

 理玖はどうすればいいかを考えながら薬草採取をしていた。鑑定のスキルがあるので簡単な仕事だと思っていたが、意外と難しい。長さの指定もあったので、確認しながら採取していく。


「さっさと持って帰らないとしおれそうだな。氷魔法で作った氷を入れるか? いや氷はまずいかな。かえって薬草を痛めるかもしれない……、そうだ! 氷魔法を使えば殺すことなく捕らえられるかもしれない!」


 とてもいい考えだと理玖は思っていた。だが理玖の作った氷は刃のように気を突き抜け、木を一刀両断した。そしてその後ろの木も同じように切り倒していた。

 理玖の考えは間違えではなかったけど魔法の威力が高かったのと、火の魔法を習った時と同じ感じで使うから、どの魔法も攻撃する形でしか使えていなかった。

 結局最後まで氷魔法をうまく使えることは出来なかった。



「はぁ? 氷魔法?」


 理玖は仕方なく魔法の専門家であるリリカに相談することにした。魔法のマの字も知らないのに魔法を使うことに無理があるのだ。


「そう、氷魔法です。盗賊とかに襲われた時、殺さないでとらえたほうがいいと考えまして」

「え?なんで? どうせ捕まえたら殺すことになるのだから殺してもいいと思うわよ。捕らえたりしたら、しばらく盗賊と一緒にいるか、そこに置き去りにするかになるでしょ。決まって置き去りにする方になるの。食料とかの問題も出てくるからね。そして置き去りの場合、縄で括るか、足を切断して置き去りにするから結局魔物の餌になるだけなのよ」


 確かに合理的な考えだった。盗賊のそれまでの行いを考えれば情状酌量の余地もないのだろう。そして裁判なんてものがないこの世界では日常茶飯事なのかもしれない。だが理玖にはまだ人を殺すことができそうになかった。


「まあ、リクがどうしても殺すのが嫌なら氷漬けにしたらどう? 足だけでもいいけど、いっそのこと全身氷漬けもいいかもね」

「そうですね。それにします」


 理玖は安堵の表情を浮かべていた。


「でもね、結局は同じことよ。盗賊は沢山の人を殺しているような集団なの。甘い考えをしているとこっちが殺されてしまうわよ」

「……わかってはいるのですが…」


 リリカの厳しい意見に理玖は項垂れることしかできない。


「それにしてもリクは氷魔法も使えるのね。水の進化形とはいえすごい事よ。早速ヨルダンに伝えなくっちゃ」


 リリカはそれ以上は厳しいことは言わなかった。理玖が身をもって学んでいくしかないからだった。


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